木の上に上る [給料袋メッセージ 75]

【木の上にのぼる】
今日は25日。月給袋のメッセージを書きました。通算75号です。

 

■■■■■■■■■■

 

社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
 
いつも社業への貢献、ありがとうございます。
今月は経営の学びの場である「中小企業家同友会」のことを書きます。

同友会には名物セミナーがあります。

「経営指針成文化セミナー」というもので、1泊2日の合宿です。

 

A=理念、B=方針、C=計画の3つのコースがあり、合計で6日間の過程を卒業していきます。

私も同友会に入った6年前から5年前にかけて受講しました。

 

今月、このセミナーの開始に当たり「少し前に卒業し、会社で実践している仲間の体験」として、

私が30分間のプレゼン(報告)をさせていただきました。

およそ50人ほどの経営者が耳を傾けてくれました。とても名誉なことでした。
 

この合宿セミナーでは、次のような質問を投げかけられます。

 

「あなたの会社の本当のお客さんは誰ですか」
「あなたの会社は本当は何屋さんですか」
「最も大切にしたい価値観は何ですか」
「あなたの会社の存在価値は」
「5年後に目指すビジョンは何ですか」

 

それぞれに、簡単に答えの出ない質問です。

この問いかけを考え続けた6年間でした。

明確な答えにたどり着いたものもあれば、まだその途中のものもあります。

先日の社内学習会で振り返った「5年後の坂元鋼材」という話も、このセミナーで考えたものでした。

 

この合宿セミナーの大きな特徴は、教える側(リーダー、およびサブリーダー)が同じ同友会の会員(経営者)であること。

教える専門家ではなく、少し前に同じ学びを経て、自分の会社で実践している中小企業の社長です。

教える側も教わる側も同友会の会員。そして教える方が、実はもっとも深く学べるものです。

私も今回も報告をまとめながら、この6年間のことを振り返るいい学びになりました。

(「教える」と言うよりも、リーダー、つまり「導く」という言い方がふさわしいかもしれません。)

 

 私が同友会に入ったのは2009年5月。リーマンショック直後で、仕事が激減していたそのさなかでした。

大きな借金をして作ったレーザー工場が前年に完成したものの、仕事はサッパリ。

さらに鉄鋼相場が大幅に下落。抱えていた在庫が大きく値下がりして、大きな含み損。

結局その年に我が社は巨額の経常赤字を出し、私が社長を務めたそれまでの9年間に蓄えた黒字分をすっかり吐き出すはめになりました。

だから当時の私が痛切に思っていた問いは、次のようなものでした。

 

「景気が良くても悪くてもビクともしない会社は、どうしたら作れるのか?」

 

ちょうどそのころ「リーダーシップとは何か」という印象的な話を聞きました。

 

「ジャングルで道を切り開くとき、リーダーは伐採現場にいてはいけない。

斧を手放し、木の上にのぼって遠くや周りを見て情報を取れ。

リーダーシップのある人は周りから理解されないかもしれないし、文句を言われるかもしれない。

それでも木の上にのぼる勇気を持てるかどうか」

 

この話は衝撃でした。私は社長として、それまでの自分を反省しました。

確かにそれまでも私は真面目なつもりでした。しかし、それは真面目に「仕事」をしているのであり、「経営」はまったくしていなかったと気づかされました。

 

先代社長である私の父が亡くなったのが1999年7月。否応なしに入社1年目の私が社長を継ぎました。

社長1年生でなく、1年生が社長でした。それを、私よりも社歴の長い社員の皆さんが一生懸命に支えてくれました。

おかげで前社長の急死という非常事態をしのげて、坂元鋼材は存続できました。

 

父の死の年に29歳だった私も一心不乱。大阪弁でいう「必死のパッチ」でした。

しかしいま振り返ると、ただ足元しか見ることなく、まさにジャングルで斧を必死に振るっていただけでした。

だれも木の上にのぼる者がいないから、いったいどっちの方向に向かって木を切っているのかわからず、ジャングルの中で方向を見失ったのではないか。その結果の大赤字だった。痛切に反省しました。

 

木の上にのぼってすることが、まさに「経営」でした。

会社の将来を考えること、業界や世間の大きな流れを読むこと、自社の強みや弱みを分析して戦略を練ること。

こうしたことをおろそかにしていたため、リーマンショックで大きな損を出したわけです。

 

また、社内を整えることも、まったく出来ていませんでした。

社員共育、計画的な採用と育成、コミュニケーションを良くすることなど、いろんなことが手付かず。

いや必要とすら考えていなかったのです。

経営理念もなければ、ビジョンも計画もない。朝礼すらなかった。

社員の皆さんは「この会社はいったいどっちを向いて進んでいるのか」と不安だったことでしょう。申し訳ないことでした。

 

「緊急ではないけれども重要なこと」。

いわゆる第2象限。これがまったくなかった会社でした。まさに「場当たり経営」。これでは失敗して当然でした。

 

その後の6年間が、こうした過去を反省して進めた学び、そしてその実践でした。

社員の皆さんに応援していただき、会社をずいぶん留守にしました。

いまは日々の「仕事」はほとんど社員の皆さんに任せています。

結果として業績は好調で、大赤字の分はすっかり取り戻せました。

 

景気が良くても悪くてもビクともしない会社。この理想に着実に近づいています。

そのことを確認できた今回の30分間の報告でした。あらためて、私を木の上にのぼらせてくれた皆さんに感謝します。

2015年6月25日     坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三

 

https://www.facebook.com/syouzou.sakamoto/posts/833358423422447