訪中団(?) IN 富山

【訪中団(?)IN 富山】

 

 中小企業家同友会のいつもの「訪中団メンバー」で富山同友会に行ってまいりました。
 いつも大阪同友会の日中経済交流研究会で顔を突き合わせている仲間5人(落合会長、大山さん、豊田さん、中野さん、坂元)。日中メンバーでもある富山同友会の松岡氏(株式会社オーパーツ)から「誰か大阪のメンバーを例会報告者に」と招聘されました。落合会長が選んだのが中野幹生氏(カワモト・マニュファクチュアリング株式会社)。その応援を口実(?)として、いつもの訪中団ノリでの富山入り。さて・・・
 

■ 富山同友会メンバーさんたちの温かいもてなし
 大阪からサンダーバードで金沢へ。そこから北陸新幹線に乗り換えて「新高岡」で下車。すると富山同友会のメンバー3人が私たちを迎えてくれました。松岡さんのほかに大畑さん(有限会社 食のコンサルタント・ブーケ)、澤田さん(十全美装株式会社)のお二人と初対面。乗用車2台で高岡の企業訪問、そして富山へ。本当に快適で楽しい旅です。今日初めて会ったばかりなのに、すぐに打ち解けれるのも同じ同友会メンバーのうれしいところ。会社は違えど、業種も違えど、同じ中小企業。日々の経営で抱く悩みや課題は驚くほど共通しています。だから初めて会ったその日からすぐに密な交流ができるというもの。同友会の学びに感謝する一瞬です。

 

 

■ 職人に誇りを! = 株式会社「能作」
 高岡市の鋳物産業は江戸時代にさかのぼる伝統産業です。全国のお寺の鐘は8割が高岡で造られているそうです。
 私たちが訪問した「株式会社能作(のうさく)」は1916年創業。錫(すず)を加工して仏具や茶器などを作っていました。しかし業界は不景気で廃業続き。同社の生産も頭打ちでした。
 ある日、工場見学を受け入れました。見学者の母親が子供に向かってこんな一言を放ちます。
「ちゃんと勉強しないとあのおじさんみたいになるわよ」
 その心無い一言は能作社長や職人さんの耳を貫きました。鋳物産業はこれから消え行く仕事と思われているのか。鋳物職人の地位を取り戻したい。誇りを持たせたい。
 能作社長が着目したのは錫という金属の可能性でした。薄く加工すれば手で曲げることも出来る。この「柔らかい金属」という特長を生かして風鈴などのインテリア雑貨、そしてお猪口(ちょこ)などを作ると売れました。さらに「曲がる食器」が大ヒットに。いまでは東京や大阪の百貨店にも出店しています。従来作っていた仏具や茶器などの売上高はそのままで、現在は新規事業の食器やインテリアなどの売上高が9割を占めます。新規の分がそのまま増えたわけです。おかげで社員規模も拡大し、好業績を続けています。
 同社の高い技術と優れたデザインの製品が世の中に支持され、「ものづくり日本大賞」や「中小企業元気とやま賞」「三井ゴールデン匠賞グランプリ」なども受賞されておられます。
 「職人たちを笑顔にしたい」と言う能作社長の切実な思いが現在の同社の輝きの原点に違いありません。
 企業経営の目的を語るときによく「物心両面の充実」と言います。人間にとって「自己重要感」というものは、ある意味で金銭よりも大切です。その物心両面の「心」の部分をとてもとても大切にされたことの結果が、今年100年を迎える同社の素晴らしい現在なのだと実感しました。心底から感動させてもらいました。

 

■ 障害者雇用で故郷に貢献を = ワークスたから
 続いて向かったのが高岡市内にある障害者雇用の作業所「ワークスたから」。
ここは我々日中経済交流研究会の前会長・樋爪さんの故郷・富山での工場と聞いて伺いました。樋爪さんは当地のご出身。30歳ごろに脱サラしてプラスチック成型品の会社「タカラ産業株式会社」を大阪で起業。やがて中国(蘇州)工場を立ち上げて大きく育てられました。「企業を発展させる原動力になったのが同友会での学び」と常に口にされておられます。日中経済交流研究会の創設メンバーでもあり、訪中団では同社の蘇州工場が何度も見学の場になりました。
 その樋爪さんの「富山での工場」くらいの予備情報で訪れたのですが、行ってみるとそこは障害者雇用の作業所でした。皆さんは小さな部品を黙々と組み立てておられます。障害の程度に応じて作業内容を変えているそうです。私たちが見学したときは、アルミサッシに付属するプラスチック部品を丁寧に組み立てていました。
 ここが12年前にオープンしたときに尽力されたのが樋爪さんでした。案内してくださった作業所の職員さんたちは樋爪さんへの感謝の気持ちを本当に目を潤ませるように語ってくれます。普通は「ワークス○○」という名前には地名を冠するそうですが、ここは敢えて「ワークスたから」と樋爪さんの会社名を使っています。皆さんの樋爪さんへの感謝の念がこめられてのことです。
 ここの会報(第1号)のコピーをいただきました。竣工式・開所式のことを取り上げた12年まえの記事と写真です。そこには若き日(?)の樋爪さんの写真も。「タカラ産業(株)樋爪伸二社長。ワークスたから建設に多額のご寄付を頂きました」と記されていました。
 あとで富山市内で合流した落合会長にこのことを伝えると「樋爪さんとは長い付き合いやけど、こんなことをしていたとは聞いてなかったなあ」「まったく自分のことを自慢せえへん人やなあ」と感心しきりでした。
 起業して成功し、そして故郷に恩返しをされる樋爪さん。私は7年前に同友会に入って以来、樋爪さんの行動・言動からずっと学ばせてもらっていますが、またしても大きな学びをもらいました。

 

 

 

■ 「顧客第二主義」の経営を目指して = 中野氏報告
 娘婿として義父が創業した鉄工所の経営をまかされた中野さん。キツイ・キタナイ・キケンの3Kどころでない荒れた工場に、まったく未経験のまま飛び込みます。そこから紆余曲折を経て同友会の学びにたどり着き、3S活動、本気の社員教育を徹底し、いまではピカピカに磨き上げられた立派な会社に生まれ変わらせました。
 私が中野さんの例会報告を聞くのは大阪、東京、そして今回の富山と3回目。中野さんのストイックな経営姿勢は年を追うごとに鋭さを増し、報告内容もどんどんと中味が濃くなっています。私も同じ鉄を扱う業界の、同じ大阪の、同じ世代の経営者としてつねに学ばせてもらっています。
〔メモ〕
・ 義父に呼ばれて入社した鉄工所は労災の絶えない危険な職場だった。疲れ果てる社員たち。業績の低迷。業界素人・経営者一年生としての苦労。自社の加工不良が原因で巨額の補償要求を突きつけられたことも。そして当時の古参役員たちとの衝突。
・ 悩みの中で見つけた同友会。そこには自分の苦労話をウンウンと聞いてくれる仲間たちがいた。同友会の学びに没頭。
・ しかし、なかなか改善しない自社の状況。一方でどんどん成長していく同友会の仲間たち。コンプレックスを感じ、次第に同友会にも足が遠のく。
・ 変動損益計算書を学びたくて経営指針成文化コース(合宿)に。製造部門の給料=労務費=コスト。一番大事な人件費をコストとみなしてよいのか? そんな疑問を抱いて学びの場に出た。
・ 最初の合宿(経営理念コース)で一晩徹夜し、なんとか理念らしきものをまとめる。それを発表。ところが叩き上げの鉄工所社長(フジムラの橋本氏)が一言。「中野さんの経営理念は、私ら職人にはさみしく聞こえますわ」
・ 学びの旅の果てに現在の経営理念「家族に誇れる職場づくり」にたどり着く。いまでは会社の封筒、伝票にも刷っている。
・ 顧客満足(CS)の前に社員満足(ES)を! 顧客第二主義(社員第一主義)を貫く。社員教育にも本気で取り組む。満足した社員が最高の仕事を顧客に提供する。
・ 経営者は社員第一主義(顧客第二主義)で。しかし社員たちが顧客第二主義になってはならない。

 

■ ぶっ続けのテーブル討論
 中野さんの一時間に及ぶ報告が終了すると、休憩なしのぶっ続けでテーブル討論。テーマは「社員満足」。富山の経営者の皆さんの本気度に触れる、中味の濃い討論でした。ここは中野さんがフェイスブックに紹介していましたので、そちらに譲ります。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1101012490011867&set=a.133176893462103.27644.100003093808072&type=3&theater
 

 富山同友会の皆さん、本当にお世話になりました。こんどはぜひ大阪にもいらしてください。