努力は足し算、協力は掛け算 [給料袋メッセージ 143]

【努力は足し算、協力は掛け算】
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。働き方改革による労働時間の短縮、それに如何に立ち向かうか。現場の取り組みから書いてみました。
(通算143号)

 

■■■■■■■■■■

 

社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

いつも社業への貢献、ありがとうございます。
先週土曜日の出勤日(21日)は年末の掃除をしながらの平凡な会社の風景だったのですが、じつは記念の土曜日でした。

 

当社では週休2日は隔週で、年間20日ほどの土曜日は昼まで出勤です。それが来年からはすべての土曜日が休みとなり、当社でも完全週休2日となります。だから先週の土曜日は歴史的な土曜日、最後の土曜日だったわけです。

 

■ 働きバチだった日本人

 

これは「働き方改革」という社会全体の流れに沿うものです。労働史をたどると、日本人は「エコノミックアニマル」と言われるほどの働きバチでした。

 

かつて日本は経済的に非常に貧しかった。豊かな現代しか知らない私たちにはもはや想像できませんが、明治、大正、そして昭和になっても国内では食えなかった人々が多かった。

 

海外(中南米など)への移民政策が進められ、さらには満州などアジアへの植民政策は戦争を引き起こしました。大勢の若い女性が工場の長時間労働で苦しむ「女工哀史」の時代が重なります。

 

敗戦後も庶民はおなかをすかせました。焼け野原の大阪に戻って鉄の商売を再開した当社の創業者(祖父母)もそうです。日本人は満足に食えなかった。だからこそ文字通りハングリーに働き、そして戦後の高度成長を成し遂げてくれました。

 

その一方で「ワーカホリック(仕事中毒)」や、英語にもなった「カローシ(過労死)」などマイナスの現象を生み、その反省がいまの働き方改革につながっています。

 

■ 休日増のプラス面・マイナス面

 

世の中の大勢が完全週休2日になって久しいですが、当社ではなかなか踏み切れませんでした。土曜日に営業するお客様も多いこと。そして土曜日を完全に休みにしても仕事が回るかどうか、大きな不安があったからです。

 

しかし来年からは完全週休2日に踏み切ります。キッカケは求人活動でした。いまや求人条件はネットで簡単に比較されます。賃金や仕事の内容とともに「休日数」が極めて重視されることを知りました。

 

採用難の時代にあって従来のままでは戦えない。社会の変化に対応しなければならない。社会を変えるのでなく会社を変える。採用活動において企業の魅力が増すこと、これが週休2日の大きなプラス面です。

 

年間休日は105日標準だったのが125日標準になります。社員一人ひとりの余暇が増え、それは人生の豊かさに資するもの。プライベートが充実します。これも大きなプラス面です。

 

一方、マイナス面もあります。お客様にはご不便をお掛けしてしまいます。業界では土曜日にお店を開けている会社もまだまだ多い。短納期を看板にしている当社にとって、稼働日数が減ることは業績に響きかねない。

 

機械の稼働時間が減り、利益が下がり、そして個人への還元も減った。もしそんなことになれば週休2日の価値を損ねます。そうであっては絶対にならない。少なくなった労働時間でも価値を生み出し続けること、お客様にも喜んでいただき続けること。来年はそれにチャレンジする新たな一年です。

 

■ チームとグループの違い

 

そこで、この数年にわたって進めてきた「教え合い・助け合い」が真価を発揮します。一人ひとりが出来る仕事の領域を拡張すること。出来る仕事の水準を高めること。そしてお互いがお互いの業務をカバーし合うこと。その成果がいよいよ問われます。

 

この数年来、社員一人ひとりの成長は著しいものでした。リーダーであるA君の口癖です。

 

「おってナンボでなく、やってナンボ。やってナンボでなく、出来てナンボ」――。

 

厳しい言葉ですが、彼のこの言葉は会社全体の成長をよく表しています。

 

そして「チームとグループの違い」という話も思い出されます。

 

「サッカーチーム」という言い方はあっても「サッカーグループ」とは言わない。
「仲良しグループ」という言い方はあっても「仲良しチーム」とは言わない。

 

共通の目的目標があり、組織としてのタテ糸もヨコ糸もあること。それが両者の違いのような気がします。

 

私はスポーツをあまり見ないのですが、今年の流行語が「ワンチーム」ということです。坂元鋼材がそうであるかどうか。それが完全週休2日と好業績を両立させる鍵です。

 

ワンチームであるために必須なのが人間関係という水質です。小さな協力をお願いできる関係、人の力を借りるれる気安さ。人と人との間の壁が小さいこと、低いこと、自由なこと、ストレスのないこと。あらためて大切なことだと思います。

 

■ 努力は足し算、協力は掛け算

 

それにしても、みんなで取り組んでくれた教え合いの威力は絶大でした。仕事のカバーが利き、誰がいつ長期に休んでも心配のない組織になりました。

 

振り返ると、むかしは有給休暇の取りづらい会社でした。「この機械はあの人しか触れない」「この仕事は彼しかできない」。だから休まれたら困るし、本人も休みにくい。つい10年ほど前は、そんな不自由な会社でした。いまはまったく別の会社です。

 

長年にわたってB君が担っていたレーザーCAMの重責をCさんが取って代わり、B君は営業の最前線に出てくれました。おかげで営業はDさんとの2本柱で強力です。Dさんにも余力が生まれ、後進を育ててくれています。

 

EさんがCADの実力を伸ばし、Fさんは値段付けの習得にも余念がありません。GさんはHさんの経理をバックアップすべく猛勉強。Hさんが安心して長期間でも休めるのは、もうすぐです。結果、極めて自由度の高い事務所となりました。

 

工場の改革はそれに先んじていました。まずリーダーのA君が現場のすべての機械を扱える「手本」となりました。後輩たちは彼をモデルに成長しています。

 

まずレーザーなりプラズマなり一つの機械をマスターし、次に別の機械を学ぶ。そしてベテランからガス溶断を学ぶ。おかげで誰がいつどれだけ休んでも安心な工場に生まれ変わりました。

 

人間は生身です。いつ何が起こるかわかりません。いつでも安心して休めることが精神的にどれほど大事なことか。

 

誰もが自分の分身を作る、自分が誰かの分身になる。それを追求してくれた社員みんなの努力に感謝です。

 

「努力は足し算、協力は掛け算」という言葉を知りました。いまの当社を表しています。

 

■ 教え合うことの「効用」

 

教える者が最も成長する。これもどうやら真理です。

 

後輩たちが追いかけるリーダーのA君ですが、やっぱり人を育て続けた彼自身の成長は突出しています。

 

家で子供に勉強を教えるのも非常に難しい。小学生相手でも骨が折れます。本当にちゃんと理解していないと、筋道立てて教えれません。教えるためには勉強します、結局自分が学んでいます。

 

そしてもう一つの効用が「人の気持ちが分かるようになる」ということ。第一子が生まれたB君が朝礼で言っていました。

 

「子供が出来て初めて子育てをしている人の苦労や不便さが理解できた。独身の時には思いもよらなかった」

 

人の不便さを知って初めて協力的になれる。A君がよく言う「人の仕事が出来るようになると、人の気持ちが分かるようになる」という話に通じます。

 

ああ、あの機械は次にこういう動きをするな、それにはこの鉄板が必要になるな、準備しておいてあげよう。それが阿吽の呼吸になります。

 

逆に、残念な例を見ることもあります。

 

ある大企業さんの仕事ぶりを見ていると、個人個人は優秀でも横の連携が取れていない残念なケースを目にします。「自分の仕事はココまで」という仕切りがあるようにも見えます。果たして、大きな組織だから仕方のないことなのでしょうか。

 

来年2月の社員旅行では「日本一の旅館」加賀屋に行きます。おもてなしの心で称賛される老舗旅館。その社員さんの働き方を知る絶好の機会になるでしょう。楽しみです。

 

■ なぜレーザーで鉄が切れるか?

 

結局は「協力と集中」、そこに尽きます。レーザーで鉄板が切れる原理に通じます。

 

なぜあんな細い光なのに分厚い鉄板が切れるのか。発振器で生まれた微弱な光エネルギーを集光し、一点に集中させる。ミラーが汚れていたり乱れていたら、トタンに切れ味が鈍ります。現場がいつも苦心してくれている通りです。

 

レーザー光を集約して先端までキチンと届けるからこそ、あんなに細いレーザーがあんなに厚い鋼板を細密に切断します。われわれの手本は、あの原理です。

 

いま日本という国自体が試されています。これから労働人口が激減します。人間の多さ、時間の長さではありません。如何に頭を使って仕事をするか、如何に成果に的を絞って協力を生み出していくか。

 

われわれは小さな町工場ですが、われわれの働き方改革は日本全体の問題解決に直結します。その気概で新しい年を迎えましょう。

 

今年も社業へのご協力、ありがとうございました。

 

2019年12月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三

 

※ 「努力は足し算 協力はかけ算」という名言は、花咲幸絵さんの「幸絵文字」で教えていただきました。感謝です。

 

 

 

■ Facebook ページ

https://www.facebook.com/photo.php?fbid=2672044359553835&set=a.140111756080454&type=3&theater