【中国製造業の躍進を見て】
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。
当社のメイン業務である鋼材切断の世界に、
中国メーカーが足音を立てて近づいてきました。
4年ぶりに見た中国のこと、そこで考えたことを書きました。
[通算 203号]
■■■■■■■■■■
社員の皆さん・ご家族の皆さんへ
昨年末、レーザー加工機の見学で中国を訪問してきました。
前君と大石君が同行してくれました。おつかれさまでした。
私にとってはコロナ期間を経て4年ぶりの中国でした。
空港に出迎えてくれたメーカーさんは最新式テスラ(電気自動車)で
かっ飛ばしてくれました。
林立するビル群、「供給過多」とも評される
おびただしい数の高層マンションなど、
いまや世界第2位の経済大国となった姿を見せつけられました。
私は1991年(平成3年)から中国を知っていますが、
もはや当時とは別世界です。
日本や韓国と何ら変わらない。
いや国内総生産(GDP)ではとっくに追い抜かれ、
4倍以上の差が開きました。
日本が得意とした家電で負け、
IT(情報技術)などの先端分野でも大差をつけられています。
■ 第3の存在、中国
その中国が私たちの本業にも足音を立てて近づいてきました。
私たちはこの数年間、次のレーザー加工機を選ぼうと検討を重ねています。
本命は当社が15年間使っているドイツ・トルンプ社製で、
対抗馬は日本メーカー数社。
15年前と同様の構図です。
ところが、です。
昨年7月に東京ビッグサイトの展示会に社員数人と参加して
「伏兵」に出くわしました。
それが中国です。
中国メーカー数社が大きなブースを構えていたのでした。
その実力は日欧メーカーを凌ぐほどのハイパワー(高出力)、
かつ低価格です。
正直なところ最初は「中国製のレーザー?」と半信半疑。
しかし彼らは熱心でした。
大阪に帰った私たちのところにすぐにやってきました。
実際の切断サンプルは立派な切断面です。
世界でも販売数を伸ばし続けている。
説明を聞き続けるうちに「第3の選択肢」として
真剣に検討せざるを得なくなりました。
■ 中国メーカー躍進の背景
中国レーザーが伸びた背景は、こうです。
中国は国内市場が巨大で、成長スピードも速かった。
そこでは高価格帯の日本製や欧州製よりも、中国メーカーが自然と選択される。
その結果、まず自国内で相当の実績を積んでいました。
たとえば日本の有力メーカーが年間数百台のところ、
彼らは1社で十倍以上(数千台)、も生産します。
そんな会社がいくつも存在する。
量産によるコストメリットがあり、数をこなすから経験値を積め、
腕も上がるわけです。
海外の技術者が中国企業に移籍したことも成長を加速させました。
企業からリストラされたり定年を迎えたりした技術者の頭脳が
中国に流出する構図です。
過去20-30年によく聞いた話です。
さらに中国の国家戦略である
「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」がありました。
2015年に習近平政権が唱えたものです。
① 2025年までに製造強国への仲間入りを果たす
② 2035年までに製造強国の中位へ到達する
③ 2049年(建国100周年)までに製造強国のリーダー的な地位を確立する
低賃金労働を背景とした従来の「安かろう・悪かろう」イメージを払拭し、
ハイクオリティな製品を作る「製造強国」への脱皮を目指しています。
ITやEV(電気自動車)などとともに、
レーザー技術の分野も当然にその主戦場です。
国家のバックアップも相当に効いているでしょう。
■ 4年ぶりの中国
そんな経緯から中国メーカーの招待で現地を訪れたわけです。
私にとってはコロナ以来4年ぶりの訪中。
何よりも、今回はビザ取得のハードルの高さに驚きました。
コロナ前はビザ不要で楽々と行けた中国。
それがビザ取得に数週間かかりました。
しかもビザ申請の「質問書」は、まるで身辺調査です。
年収、精神疾患・感染症の有無、学歴・専攻、
過去の職歴(当時の上司の氏名まで)も記載を求められます。
家族構成では配偶者の生年月日や出生地(市町村名)も必要です。
それも子供や両親まで(25年前に亡くなっている父の情報も)。
過去に中国居住歴のある私は
「30年前の留学ビザ」まで提出を求められました。
たまたま保存していましたが、無ければどうなったことでしょう。
ここまでプライベートに踏み込まないとビザが出ないという現実に
閉口しました。
顔写真も「メガネなし」です。
至るところに設置されたカメラで24時間・360度、
監視されているわけです。
コロナを挟んだ4年間の変化を感じずにはおれませんでした。
■ 中国レーザーの実力
さて肝心のレーザーはまさに「百聞は一見に如かず」でした。
3日間に渡っての見学。
実際に現地の工場を訪問し、テスト切断を何度も行ってもらいました。
その実力に嘘はありませんでした。
しかも日欧メーカーがまだ手を出していないハイパワーで
極厚鋼板を楽々と切っていきます。
恐らくは安全性を理由にハイパワーに慎重になっている日欧を横目に、
中国は果敢に攻めたマシンを作ってきます。
正直なところ、快い驚きでした。
しかし、私たちが中国製品に抱く不安、
それが3日間ですべて拭えたわけではありませんでした。
いくつか訪問させていただいた工場でレーザーの実機を
見続けました。
日本人の几帳面さ・慎重さからすると疑問を感じる場面がなくはなく、
特に安全性に対する認識の差を感じました。
中国からすると我々が潔癖すぎであり、
過剰品質を求めているのかもしれない。
けれどもそのこだわりが日本の高品質なモノづくりを
支えてきたのだとも思いました。
■ 3つの判断軸から
大きな判断を下すにあたって常に検討する次の3つのポイントを、
今回も当てはめて考えます。
アチーブメントの青木仁志社長から学んだ視点です。
[本質的判断] ―― 機械そのものは信頼たるか?
マシンの切断能力そのものは本物と実感できました。
しかも日欧メーカーを上回るハイパワーの領域で
極厚鋼板を楽に切断する実力は、見事です。
極厚鋼板をレーザーで切るという当社の要望にも叶っています。
[客観的判断] ―― 自分の主観だけに頼らない
中国メーカーに対する社会的評価です。
「世界販売量ナンバーワン」を謳っています。
中国国内はもとより南北アメリカ、欧州、アジア、豪州と、
全世界で売れている。
ということは、すでに世界的な評価を確立していると言えそうです。
日本でもすでに5年ほど前から導入しているユーザーの声を
聞かせていただきました。
「とくに大きな故障はなかった」「問題なく使えている」
というものでした。
[長期的判断] ―― 5年・10年・20年の視点
最後の判断軸は長期耐久性です。
たとえ価格が安くても、もし短命であれば却って高い買い物になります。
当社がいま使っているトルンプ製は15年目になりますが、
切れ味は当初のままを保っています。
前君を筆頭に歴代のレーザー担当社員が
丁寧に使ってくれていることの賜物でもありますが、
この15年間お付き合いしてきたトルンプ社の技術陣への信頼度は、
やはり高い。
トルンプも日本メーカーもすでに半世紀の実績があり、
この安心感はプライスレスです。
中国レーザーがこれから15年、20年としっかりと稼働してくれるかどうか。
導入後のアフターサービスは万全か。
ここ5年・10年で伸びてきた中国メーカーに
長期信頼性の証明を求めるのは酷ですが、
ここはやはり最後に気になる関門です。
■ 徹底的に考え、チャレンジ
製造業にとって設備投資は会社の命運を分けます。
私が行った過去の大型投資は結果的に2つとも大成功を収めました
(2002年の初代プラズマ、2008年の初代レーザー)。
次も、万全の計画のもとに実行します。
昨年2カ所の土地を取得しました。
そこに工場を建ててレーザーを導入すると、
合計で5-6億円の投資になります。
その多くが借金です。
設備投資を急ぎすぎ、借り入れ過多になることは避けねばなりません。
ここでも大事なのはバランスシート(BS=貸借対照表)です。
自己資本比率は一定レベル(40%以上、できれば50%以上)
を維持します。
借金とは「他人のカネ」。必ず返さねばならない。
適正利潤をいただいて自己資本(自分のカネ)を蓄積し、
BSを意識して設備投資をせねばなりません。
「ようさん(たくさん)社員を抱えている、
博打(ばくち)のような経営はできない」とは、
私にBS経営を教えてくださった故・木村勝男会長(木村塾)の言葉です。
一方で木村会長は
「業種にもよるが適正自己資本比率は2割でいい。
借金と言うな、『資金調達』と言え。
自己資本が貯まったら、チャレンジせえ!」
と私たち塾生に発破をかけました。
私の経営ビジョンの根幹は
「どんな不況にもビクともしない経営」
「人の育つよい会社」です。
経営の安全性を心がけ、
そして社員と会社が成長できるよう長期的な視野に立ってチャレンジします。
■ チャレンジする国・しない国
日本経済は過去30年、停滞し続けました。
それと対照的に伸びたのが中国でした。
戦後の高度成長期を経て豊かになった日本は、
知らず知らずのうちにチャレンジに及び腰になりました。
一方で、積極果敢に成長を選択し続けたのが中国。
彼らの貪欲さが、いまの日本人には欠けていた。
当社はリーマンショックからの経営改革が成功し、
一定の成果を収めました。
しかしここで安住してはなりません。
現状維持は衰退の始まり。
成長の歩みを止めてはなりません。
今年は向こう20年間の事業計画の大きな枠組みを作ります。
皆さんのお知恵をぜひお貸しください。
自社を磨き続けることで、日本経済の復活に貢献します。
2024年1月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三