【中小企業の3大課題】
きょうは25日。給料袋のメッセージを書きました。
コロナに見舞われた2020年度もあと数日で終わり。この激動の年度を振り返りました。
[通算161号]
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
いつも社業への貢献、ありがとうございます。コロナに見舞われた2020年度(第69期)もいよいよ終わります。当社の業績ですが、残念ながら単年度の業績は振るいませんでした。赤字こそまぬがれますが、近年にない低水準の利益でした。経営者としての非力をお詫びいたします。
この状況にあって、社員の皆さんの協力のおかげで将来の布石をいくつも打てたことに感謝し、一年を振り返ります。
先日、業界紙の「鉄鋼新聞」さんが取材に来てくれました。私が話したのは、「中小企業の3大課題」のことでした。さまざまな切り口がありますが、私が感じているのは次の3点です。
① 販売先の確保
② 人材の採用と育成
③ 事業承継
この3つの課題を常に背負っているのが企業経営です。ひとつずつ見ていきます。
■ 10年ごとに巡ってくる不況
今期は受注が大きく減少しました。「7割経済」という言葉が昨今の経済状況を語るキーワードとして登場しましたが、当社を取り巻く状況も仕事量はおおむね7割でした。
振り返ればリーマンショックの時も瞬間的には5割程度まで仕事量が落ち込みましたが、あのときは1年ほどで巡航速度に戻っています。ところが今回は1年半が過ぎても仕事量は回復しません。
業界の会合では「リーマンショックはおろかバブル崩壊のときよりも酷い」と報告されました。この道で半世紀近く仕事をしている熟達のビジネスマンが口々にそう証言しました。これは衝撃でした。
鉄鋼業界はリーマンショック以降ずっと右肩上がり。当社も2年前に過去最高益でした。あの充実した仕事量を、皆さんもご記憶と思います。それが一変しました。まさに天候と同じ、快晴のあとの暴風雨。外部環境は常に変化する、そのことをまたしても実感させられました。
■ 営業に再び注力 ―― ① 販売先の確保
とはいうものの、実はこれはチャンスだと思いました。当社の「規模の小ささ」は、こういうときほどプラスです。氷河期にはマンモスや恐竜など体の大きな動物ほど生き残りにくい。空腹を満たすための無理な安値受注をしなくてもいい。適正価格でキチンとした商売に集中できます。
天候不順の嵐はやがて過ぎ去る。それに耐えるだけの備蓄(内部留保)も貯めました。リーマンショック以後の経営改革が、こういう非常時にこそ意味を持ちます。
業界で小粒な存在の我が社。ということは、まだまだ当社のことを知らない未知のお客様がたくさんいるはず。知られていなければ存在しないのと同じ。
私たちの高品質・短納期のサービスをもっともっと多くのお客様に使っていただきたい。お役に立ちたい。その思いから営業用の新しいホームページを作り、今月ようやくオープンしました。コロナ期間に注力した次への布石です。
https://www.laser-gas-cut.com/
■ A君とB君 ―― ② 採用と育成
そして今期とりわけ良かったことが、A君とB君の入社です。ともに高校新卒で4月入社。あいさつが本当に気持ちよく、先輩社員の私たちがハッとさせられる毎日です。朝早くから機械を磨き、準備にも余念がありません。仕事に向かう姿勢もまじめそのもの、クレーンの国家資格も首尾よく取得しました。
工場長のC君、そしてリーダー格のD君が2人を預かり、レーザーとプラズマを半年ずつ交代で経験させました。先輩の厳しい指導に必死に食らいつく姿を見て、感謝の気持ちでいっぱいです。
2人が昨年の4月に入社したころ、世間はコロナ禍に見舞われました。在宅ワークという異例の事態となりました。
しかし入社早々のこの数週間、ZOOMを使っての「遠隔授業」で会社の大切にしたい考え方をじっくりと学びました。テキストとして私の「給料袋メッセージ」からいくつかを選び、在宅メンバーと私で輪読しました。
会社がたどってきた歩み、数々の失敗と挑戦、そして確信をもって伝えることのできる大切にしたい考え方。それらを中堅社員とともにZOOM越しに学んでくれました。これは貴重な時間でした。行動の前に思考がある。価値観の共有に勝るものはない。
今期は仕事量が少なかったため、落ち着いた環境でじっくりと社会人スタートを切ってもらえました。採用と育成という意味では、きわめて充実した1年間だったことに、あらためて感謝します。コロナになって良かったことの一つです。
■ バトンをつなぐ ―― ③ 事業承継
3大課題の最後は事業承継です。企業は永遠なり。ところが人間には寿命がある。だからこそ、いずれは私も経営のバトンを次に渡さねばなりません。
オーナー企業3代目の私の後継者として、子供たちはやはり候補です。しかし私が51歳なのに子供がまだ9歳と4歳、あまりにも幼い。これから成長していく子供たちがどんな未来を描くのか、未知数です。この私も20代は大阪を離れて放浪しましたから。
もし子どもたちが経営者を本気で目指したとしても、相応の試練がある。いくら能力を磨いても、それだけでは人はついてはこない。社員の皆さんが認めなければ、受け入れてもらえない。
かつて私が経営を学んだ故・木村勝男会長(木村塾BS経営研究所)の言葉です。
「経営者とは給料を払う人。払う側ともらう側、どっちの苦労が大きい? 苦労は人を磨く。苦労とやりがいはセット。やりがいだけはない!」
私にとって経営は天職。人の喜びを追求し、そして自分も磨けるのが経営者。これほど楽しい仕事はありません。だから生涯現役です。
■ 人の力を借りられる魅力を磨くこと
しかし、です。もし不慮の事故にあったり、健康を害したりしてしまったら、どうなるか。生命保険はたくさん積んでいますが、お金だけで解決できるものではない。いざというときに経営を担う人材が必要です。それは仕事が出来て、人望があり、そして全責任を担う覚悟があること。
仕事ができることとは、お客様や周りの人の問題解決ができること。
人望とは人柄であり、多くの人の協力をもらえる人格であること。
言い尽くされた経営の名言、アメリカの鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの墓碑に刻まれたという言葉の通りです。
「己より優れた者と働く技を持つ者、ここに眠る」
人は一人ではしょせん1馬力。多くの人の力を借りることのできる人格を身につけてこそ、何馬力にもなる。これこそが経営の極意であり、人生の醍醐味。私も死ぬまでにこの境地に達したい。
そのためには、周りにいる人が幸せを感じられる魅力を持つこと。志の高いビジョンを持ち、それを語れること。ビジョンは常に利他的であり、そして数字に裏付けられていること。論語とソロバン。言葉も大事、数字も大事。思いだけでなく、それを実現できる技も持つこと。
そんな徳と才を兼ね備えた魅力的な人財が育つ会社であること。私の身に万が一のことがあっても、後を託せる人材がわんさかいる企業でありたい。
それは決して夢物語ではありません。当社の経営改革の歴史が証明しています。社歴の長い社員ほど実感してくださっているでしょう。過去10年間に私たちが成し遂げた軌跡を振り返ると、その延長線上である今後の10年、20年、どれだけの人財が輩出されるでしょうか。楽しみなことです。
■ 「経営社員」を育てる
2020年度(第69期)もあと数日で終わります。何とか黒字は確保しましたが、BS(財政状況)を見ると内部留保はほとんど積めませんでした。過去10期連続の黒字により自己資本はリーマンショック直後の5000万円から出発して3億円近くにまで積み上がりましたが、ここへきて足踏みです。
しかし今年は別の意味で「内部留保」が進みました。それが社員の皆さんの成長です。財務のダムこそ積めませんでしたが「人財のダム」をいっぱい積めた1年間でした。
最後にふたたび木村会長の言葉を紹介します。
「社員に経営状態をオープンにすること。とくにPL(1年間の儲け)だけでなく、BSを教えること。会社始まって以来の歴史が詰まったBSを教えると、社員が長期的なものの見方をする。BSが分かると経営が分かる。それを『BS社員』『経営社員』と呼ぶ。社員全員を経営者にせえ!」
「うちの社員は全員BSが分かる、私より優秀。うちの会社でしかメシ食えんのは依存社員。うちの会社でなくても、どこに行ってもゼニを稼げるのが人財。どこでも通用する、ヘッドハンティングが掛かるような社員になったらええ、そのくらい自分を磨いたらええ。仕事で自分を磨く。こんなええことはない。人のせいにしたらアカン!」
木村会長が他界されてもう2年半、そのお声が懐かしい限りです。会長に出会えたのもリーマンショックで苦しんだおかげでした。あの頃にまいた種が、大きく育っています。あれがあったから、いまがある。
4月からは第70期です。力を合わせてもっともっと良い会社にしてまいりましょう。よろしくお願いします。
2021年3月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三