会社は水槽、人間関係が水質 [給料袋メッセージ 204]

【会社は水槽、人間関係が水質】

 

 

2月度の給料袋メッセージです。

過去の失敗を振り返り、社員の協力関係の大切さを考えました。

 

 

良好な人間関係という「水質」の維持のためには、

全員の努力が必要だと痛感します。

 

 

[通算 204号]

 

 

 

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

 

ことしの大きな経営課題に「コーポレートスタンダードブック」

の編集があります。

会社の大切にしたい価値観を整理し、まとめるものです。

 

 

数年前から「いつか着手せねば」と思いながら、

先延ばしの癖に陥っていました。

 

 

経営者になって25年目です。

これまでに考えてきたことを小冊子にまとめます。

 

 

これから27年後の100年企業を展望する過程にあって、

ちょうどよいタイミングです。

 

 

経営理念・ビジョンもさらに深掘りします。

理念の奥底にあるのは「創業者の思い」と言われます。

 

 

初代経営者だった私の祖父母・2代目だった父の思いを振り返り、

そして私が経営のバトンを受け継いだ25年間を顧みました。

 

 

浮かび上がってきた思いは人に対するもの。

それも失敗から学んだ経験でした。

 

 

■ あわただしい事業承継

 

 

2代目社長だった父にガンが見つかったのが1998年夏。

 

 

その余命が短いことを知った私は、

勤務先の時事通信社を辞して家業に入りました。

 

 

翌1999年夏に父は他界(享年62)。

1年生社員だった29歳の私が3代目を継ぎました。

 

 

折しもバブル崩壊後の金融危機の真っ最中、鉄鋼業界も不況でした。

しかし父を慕ってくれたベテラン社員さんたちが一致団結してくださり、

事業承継後の危機を乗り切りました。

 

 

私の運が良かったのは、3代目を継いだ翌年、

廃業した同業他社からベテラン職人(橋本さん)が移籍してくれたことです。

さらに橋本さんの紹介で入社したのが前君でした。

 

 

生粋の熔断職人だった橋本さんは

坂元鋼材の技術水準を大きく引き上げてくれました。

 

 

さらに前君に至っては私が導入を決断した

2つの大型プロジェクト(プラズマ加工機・レーザー加工機)を

いずれも成功に導きました。

 

 

この時代に増強した技術力が当社の骨格になっています。

高品質の仕事を貫くことで厳しい時代を生き抜くことが出来ました。

 

 

■ 採用と育成の失敗

 

 

ところがこの時代(1999-2013年まで)、

立て続けに失敗したのが人材の採用と育成でした。

 

 

「ちゃんと働いてくれるだろう」という根拠なき期待で採用。

そして教育も訓練もない。

それでは育つ人も育たない。

 

 

採用して1カ月後・半年後・1年後・さらに4-5年後に

辞めてもらわざるを得なかった例が何人も続きました。

早期離職になった方には、私の力不足をいまさらながらに申し訳なく思います。

 

 

■ 悔やまれる失敗の過去

 

 

なかでも、かつて在籍した一社員のことを思い出すと、胸が痛みます。

入社して数年頑張ってくれましたが、周囲との折り合いが良くなかった。

粗暴な態度で周囲をおじけづかせていました。

 

 

私は彼の更生(立ち直り)を期待して指導し、何度も許しました。

しかし、それは何の変化も生み出さなかった。

 

 

私の目の前では大人しく振舞うものの、

目の届かないところでの行動はまったく改まっていなかったのでした。

 

 

社員の皆さんはそれをずっと見ていました。

私の目はごまかせても、ともに働く仲間の目はごまかせない。

「社長はなんて甘いんだ」と不満だったはず、当然です。

 

 

社内は疲弊し続けました。

それでも止まない彼の問題行動を目撃していた社員たちは、

私に報せませんでした。

 

 

他の社員の譲歩と忍耐のうえに胡坐(あぐら)をかいて、

彼は増長していきました。

 

 

こんな小さな職場なのに問題に気づけなかった私の目は、

まさに節穴でした。

 

 

最終的には、意を決したある社員の通報で私は数々の事実を知りました。

このときばかりは私も退職を勧め、彼も受け入れました。

 

 

当時の社員さんの言葉です。

 

 

「朝、職場に行く気分が重かった」

 

 

「暴言を吐かれて夜も眠れず、睡眠導入剤に頼った」

 

 

「好きな職場だけれど、離職を考えて業者に登録した」

 

 

なんという事態を招いていたのか。

社長としてそんな職場にしてしまったこと、まさに痛恨事でした。

 

 

私の判断ミス・力不足が招いた不幸でした。

当時在籍していた社員の皆さんに、改めてお詫びを申し上げます。

 

 

彼はその後、当社での失敗を反省し、他社で活躍していると聞きました。

きちんと当社で育成してやれなかった、それも後悔です。

 

 

■ 水質を守り抜く

 

 

それから私は採用と育成に本腰を入れました。

採用チームを結成して採用手法を学び、

社員全員で「望ましい社員像」についての議論を重ねました。

 

 

独自の採用ツールを作り出し、入社後も先輩が育成に掛かり切り。

それが「教え合い」という良き文化を生みました。

 

 

2013年から若い社員が続々と入社し、そして定着していきました。

会社の空気がとても軽くなった。

純粋に仕事に打ち込める職場を、ようやく手に入れることが出来ました。

 

 

アチーブメントで教えられた「水槽理論」のことは何度も紹介しました。

職場を水槽とたとえると人間関係が水質です。

 

 

魚(社員)が病気になって水槽から取り出して治療して元気になったとしても、

元の水質が濁ったままでは魚はまた病気になる。

だから水質を汚さないことが会社にとっては何よりも大事。

 

 

気持ちの良いあいさつ、温かな思いやりの心、

お互いの気遣い・心遣い、

そして意見が違う場合には礼節をもって具申する態度。

 

 

これは99%の社員が体現していたとしても、

たった1人がそれを乱せば台無しです。

 

 

15人規模の小さな会社です、1人の問題行動が引き起こす悪影響は甚大です。

当時どれだけの社員が苦しんだか。

あの時代を思い返すと、いつも心痛みます。

 

 

そして大事なのは今であり、これからです。

私は職場の責任者として、この職場の水質を守り抜きます。

 

 

■ 職場は運命共同体

 

 

坂元鋼材は総勢15人の小さな会社、まるで一隻の小舟です。

乗組員15人で大海原を航行しています。

船員の心が一つであって初めて、この困難で視界不良な時代を航行できます。

 

 

船員同士の一致団結を作ること。これが私の使命です。

 

 

いま作成中のスタンダードブックに「フィロソフィー」という章があります。

その全7項目のうち、最初の3つはこのように考えています。

 

 

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◆ フィロソフィー① 思いやり

 

<私たちは思いやりの心をもって、良好な人間関係を築き上げます>

 

 

水質の悪い水槽にいる魚は病気になり、病気の状態でよい仕事はできません。

良い仕事は良好な人間関係の職場から生まれます。

隣人に対する思いやりの心を持ち、水質の良い職場環境を守ります。

 

 

そのためにも気持ちの良い挨拶とアイコンタクト、

人の気持ちを慮(おもんぱか)る細やかな配慮、

相手の立場に立った温かなコミュニケーションを常に心がけます。

 

 

会話はキャッチボールであり、決してドッヂボールになってはなりません。

 

 

職場のきれいな水質は、全員が等しく努力して初めて維持されるものです。

99%の人間が努力していても、1%の人間が乱しては水質はすぐに悪化します。

 

 

◆ フィロソフィー② 一致団結

 

<私たちは全社員の一致団結をつくりだします。私情を越えて組織の目的を果たします>

 

 

人は一人ではしょせん1馬力。

人と力を合わせることで多馬力になる。

そのために不可欠なのが職場の一致団結です。

 

 

十人いれば十通りの考え方があります。

しかし十人がバラバラでは組織力は発揮されず、

逆に際限のないマイナスを作りかねません。

 

 

組織全体の目的を果たすためには自己の感情を乗り越えて、

全体にとって最適となる解をみんなで追求する姿勢が大切です。

 

 

全社員が心を一つにしてお互いを思いやることで一致団結をつくりあげます。

 

 

◆ フィロソフィー③ 責任

 

<私たちはプロとしての責任をもって仕事に臨み、仲間と顧客と社会に奉仕します>

 

 

仲間・顧客・社会から信頼と尊敬をいただくクオリティ高い仕事を成し遂げます。

そのためにも自分自身が「すべての源」であるという当事者意識を持ちます。

 

 

一人ひとりが自分で自分を満たす自律した大人であること。

自らの欲求充足のために他人(ひと)の欲求充足を妨げてはなりません。

 

 

さらには隣人の欲求充足の手助けが出来るレベルに至ること、

それが当社の求めるビジネスパーソンの姿です。

 

 

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一読してお分かりのように、

これらのフィロソフィーは過去の失敗経験から生まれています。

多くの犠牲の上に成り立った、当社にとって宝物のような言葉です。

 

 

社員全員で力を合わせ、なんとしても良い会社をつくりあげましょう。

 

 

2024年2月22日

坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三

 

 

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