今年の4月のこと。
60年を超える我が社の歴史の中でも特筆すべき出来事がありました。
社外の研修会社さんに我が社まで来ていただき、
社員全員による2日間の研修を受講しました。
じつは我が社には、ずっと社員教育をおろそかにしていた時代があります。
人材育成という考えも、あまり重視していませんでした。
実際の仕事のことはOJTで先輩社員から後輩社員へ受け継がれます。
仕事に対する姿勢も、いわば「社風」としてなんとなく伝わってはいました。
しかし、それだけではいつまでたっても普通の町工場です。
20世紀の町工場はそれでよかったのかもしれません。
高度成長の時代は、黙っていても仕事が来ました。
21世紀の町工場はそれでは生き残れません。
成熟社会、低成長社会、人口減少社会となり、
勝ち残りを掛けた必死の戦いです。
そう考えるに至ったきっかけがリーマンショックでした。
売上が半減し、大赤字。
私は目が覚めました。
世間が好景気なら我が社も好調。
世間が不景気なら我が社も不調。
これでは、情けない。
どんな時代でも必要とされる会社になること。
そのためには私たちが必要とされる
「人財」にならなければならない。
そうでなければ厳しい時代、お客様に選んでいただけない。
そして遅ればせながらまず始めたのが朝礼。
経営理念の唱和から始まり、
社内の意思疎通を徹底させました。
そして毎月1回、土曜日の時間を使って
「社内学習会」を始めました。
人財育成のこと、社会を知る勉強、会社の経営状態のことなど・・・
社外の講師の方々にもおいでいただき、いろんな学習をしました。
社内の問題点を皆で考えたり、未来の会社像を探ったりもしました。
そうして会社内で学ぶ土壌が出来て4年。
今回初めて社外の研修会社さんに我が社まで来ていただき、
2日間の研修を行ったというわけです。
アチーブメント株式会社の i-standard 研修です。
私とアチーブメントの出会いは3年前。
「理念経営」をテーマにした青木仁志社長の講演会に
参加したのが初めてでした。
それから同社の講座を片っ端から次々に受講。
ここで学ぶことは単に営業や経営といった
仕事で役に立つだけではない。
人生そのものを貫く大事なことを教わる研修です。
これを会社に取り入れたい。
そうすれば会社は変わる。
良い方向に変わる。
そう思って実施した全社研修でした。
2日合計で23時間という過密スケジュール。
社員14人全員が受講してくれ、大きな一体感を手にしました。
長時間にわたって机に座って学習することなど
「中学を出て以来何十年ぶり」
という社員さんもいました。
初日12時間(朝9時から夜9時)の研修が終わると、
さらに数時間はかかる宿題が出ました。
自分の人生を棚卸しし「人生理念」を突き詰めるというハードな宿題です。
そして2日目は11時間(朝8時から夜7時)。
全員が真剣に取り組んでくれたことに、こころから感謝しています。
研修は、組織の発展と自己実現を両立させることをねらいとしています。
会社の、そして個人の理念を深めてゆきます。
企業にとって経営理念が大切なように、
個人には「人生理念」が大切。
社員一人一人が自らの人生理念とは何か、真剣に向き合いました。
研修の狙いの一つが
「水質を良くすること」
水質とは何か?
ズバリ、人間関係であると私は理解しています。
アチーブメントでは「水槽理論」というものを学びます。
水槽の水が汚れていれば、中の金魚が病気になる。
その金魚を取り出してキレイな水に入れれば元気になる。
しかしもとの濁った水に戻せばまた病気になる。
水質(人間関係)が濁ったままでは、
社員の能力を最大限に発揮させることはできません。
それでは大きな成果は望めない。
だから社員のコミュニケーションを円滑にすることも研修の大きな目的です。
おかげで社内の人間関係もずいぶんと改善しました。
(このことだけでも、金銭に換えられない価値でした。)
そしてハイライトは2日目の午後でした。
社員一人一人が人生理念をプレゼンします。
その社員のプレゼンから、私はたいへん大きな経営課題、
いや人生課題を見つけました。
それはベテランの古参社員4人の理念プレゼンでした。
それぞれ、勤続年数41年、30年、27年、25年と、
すべて先代社長(私の父)時代からの社員さんたち。
そこには14年前に逝去した先代社長を心から慕う
親密な内容が非常にたくさんありました。
「先代社長からいただいたご縁に感謝している」
「先代社長のおかげで今の自分がある」
「大きなミスをしてこっぴどく叱られたが、
その数分後にはジョークを言って和ませてくれた。
優しい社長だった」
いまでも父のことを心から尊敬し、慕ってくれる内容でした。
かかわり合いの内実です。
私は息子としても感動しました。
「父は偉かった」
そう感想を述べた私に対して、先代社長を知らない30代のある中堅社員が言いました。
「自分たちが60代になったとき、
ベテランさんたちが先代社長に抱いておられるような気持ちを現社長(私)に持てるかどうか、ですね」
うーん、何とキビシイ、しかし何とその通りな指摘。
父は1974年に37歳で2代目社長を継ぎ、
62歳で亡くなるまで25年間の在任でした。
私は1999年に29歳で3代目を継ぎ、いま43歳。
在任14年目です。
波乱万丈の14年間でしたが会社の規模を拡大し、
一定の成果も得ました。
「少しは父に近づいたか」と若干の自負もありました。
しかしそんな表面的な業績ではなく、
「社員に心から慕われる社長になれるかどうか」
というまったく別の尺度からの大きな大きな
経営課題(人生課題)をもらったわけです。
アチーブメントの青木社長のおっしゃる
「人を幸せにする経営」 にも通じるポイントです。
業績の拡大と並んでの大きな大きな課題。
そこに気づけたことが私にとっての最大の収穫でした。
良い種をまいたこの2日間の価値は、何物にも代えがたいものでした。
38年後の第100期を目指す道程における
大きなターニングポイントであることは間違いありません。
あらためて開発者の青木社長、
2日間にわたって渾身のトレーニングを行ってくださった大高先生、
担当の針生さん、
そして2日間全力で取り組んでくれた社員に感謝します。