■ 成功の反対は失敗ではなく、何もしないこと(その2)
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。
今秋に竣工する新工場計画と、幸運に恵まれた3つの土地とのご縁。
そして「借金恐怖症」だった私のパラダイムシフト(思考の転換)
について書きました。
[通算218号]
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
2025年が明けました。今年は念願の新工場が完成します。
17年ぶりの大型投資です。
リーマンショック後の16年にわたる経営改革で力を蓄えたことに加えて、
たくさんの幸運に恵まれたおかげです。
■ 地元・九条での拡張
当社の位置する九条地区は戦前から栄えた工業地域で、
かつては町工場ばかりでした。
しかしバブル崩壊後は工場の廃業や倒産が続き、
その跡地にマンションが建ち並びました。
私たちにとって工場拡張は長年の課題です。
新しいレーザー加工機を置きたくともスペースがない。
一時は奈良県をも視野に工場用地を探しました。
そんななか、2023年3月に隣地(真裏)の土地が競売で出ました。
その前々年に廃業された工場跡地です。幸運にも当社が1位で落札しました。
この時に2位だったのがマンション業者でしたから、
ひょっとすると今ごろは真裏にマンションが建っていたかもしれません。
当社のプラズマ工場に隣接ですが、プラズマは加工時の騒音が大きい。
危ういところでした。
■ A先生による反対意見
同じ2023年の秋、こんどは隣地(真横)の購入話が来ました。
その年の夏に廃業した工場です。
この2カ所目があると新工場のレイアウトに大きな自由度が生まれる。
またマンションが来る恐れもある。真裏と真横。まさに願ってもない話でした。
ところが顧問税理士のA先生が購入に難色を示されました。
「その土地を買って何をするのか?」と聞かれます。
私は土地2カ所に新工場2棟を建てて最新鋭のレーザーを導入すると伝えました。
すると先生はおっしゃいました。
「土地2億、工場2億、レーザー2億。合計6億円は借り入れ過多だ。
年商(4.5億円)を上回る。持ち株会社(HD)を作ったときの借入も別にある。
これらを返済するためには年間8000万円の経常利益が必要だ。
しかし過去最高益は6000万円、大丈夫か?」
■ 財務を学び直す
先生のご指摘に私は頭を抱えましたが、
あらためて財務を勉強しなおしたことは以前にも書きました。
超重要ですので、再説します。
教材は「YouTube」でした。財務をテーマにするチャンネルがいくつもあり、
とくに役に立ったのが
「中小企業の財務チャンネル」(森尾勝俊先生=古田土会計)でした。
なんと「借入金の返済額から目標利益を考えるのは最悪です」という、
私の悩みにストレートに答える動画がヒットしました。
・ 「借入金の返済は利益で行う」という常識にはまっていませんか?
借入金の返済原資は「資金使途で異なる」のが銀行融資の基本。
「借入金の返済は利益で」という常識を疑うことから始めましょう。
・ 融資の資金使途は3種類
① 設備資金 = 「利益+減価償却費」で返済する
② 運転資金 = 「売上代金」で返済する ★ここ、大事!
③ 手元資金 = 「手元資金」で返済する ★ここ、大事!
・ 当期利益(+減価償却費)で返す借入金は設備資金のみ。
借入金のうち、「運転資金」と「現預金」に見合う借入金は、
利益で返す必要がない(資産で返す借入金)。
・ 利益で返す必要のない借入金(折り返し融資が前提)を
利益で返そうとすると、利益目標が高くなる。
したがって売上目標が高くなり、経費の削減目標も高くなる。
ストレスも高くなる。
誤解から生まれた目標に、社長が疲れ切る、社員も疲弊する。
・ 借入金の本質は、利益で返す借金と、そうでない借金を分けること。
■ 負債もあれば資産もある
この動画を何度も何度も繰り返し見ました。
そして当時の試算表のBSを改めて点検しました。
1カ所目の土地を買っている段階です。借入金こそ2億円近くありますが、
現金(1.4億円)・運転資金(1億円)を差し引けば、
正味の借入金は「マイナス4000万円」です。拍子抜けしました。
リーマンショック以後の財務改革のたまものでした。
ここから新たな土地・工場2棟・レーザーに投資しても「正味の借金」は4億円。
リーマンショック以後の当社の実績なら13年で返せる。
しかも最新鋭ハイパワーレーザーが更なる武器となる。
2カ所目の土地を買っても大丈夫だと、納得できました。
YouTubeチャンネルの森尾先生の言葉から、力をもらいました。
・ 借入金の本質は、利息を払って時間を買うということ。
・ 自己資本は時間が掛かり、他人資本は一瞬です。
・ 変化の激しい時代に、いまの経営スピードで大丈夫ですか?
これまでの13年間に渡って顧問を務めていただいたA先生には
たいへんお世話になり、当社の苦しい時期を支えてもらいました。
しかしながら前期の決算がまとまったタイミングで謝意を述べて、
顧問契約を終了していただきました。
先生からはたくさんのことを教えてもらいました。
これからも感謝の念は変わりません。
そして昨年の7月から、森尾先生の所属する古田土会計さんに
顧問契約をお願いしたという次第です。
■ 3度目の幸運
2つ目の土地を確保し、レーザー加工機の選定を終え、
工場2棟のレイアウトが煮詰まった昨年10月のことでした。
新たに3つ目の土地の購入話が舞い込みました。
前年末に購入した隣地(50坪)の隣地(50坪)です。
「いまなら設計変更が間に合います」と工務店様。
当初50坪で計画していたものが100坪になる。
設計が大きく自由になり、将来の発展性を考えるとその価値は計り知れません。
しかし土地と建物で1.5億円は余計に掛かる。
6億で計画していたものが7.5億に膨らむ。
ところが、2つ目の土地の時にあれほどの「ためらい」があったものの、
こんどは即断でした。
この土地の話はすでに出回っています。
1日だけ熟考しました。
いつも相談相手になってくれる地元のT社長、工務店のN社長、
そして弊社顧問の立道岳人先生と児玉靖彦先生。
さらに複数の銀行さんにも確認しました。
とりわけ、銀行さんがくれた言葉に大きな力をいただきました。
「確かに一時的な負担は増加するかと思いますが、
それ以上の投資効果が得られると思います。
微力ながら我々でできることは全力で致しますので何なりとご用命下さい」
熟慮して決断し、翌朝に売り主様を訪問しました。
当社への売却を快諾していただきました。
■ リスク察知能力を磨く
一連の投資は土地・建物・レーザーで7億円台に膨らみます。
年商(4億円台)を上回る投資であり、大きなチャレンジであることに
変わりありません。
このタイミングで先週の3日間、
新しく顧問契約した古田土会計さんの「経営計画作成合宿」に参加しました。
担当者と膝詰めでパソコンに向かいました。
過去2期の決算書、そして進行期(当期)の着地見込みをベースに、
向こう5年間の決算書(とくにBS=貸借対照表)を見通しました。
いままでも経営計画書の中で、5年先のBS予想を作っていました。
しかし今回の合宿で作った5年後のBSは、
精度と納得度が格段にアップしています。
売上目標を定め、増加する人件費、その他の経費を入力します。
そして借入額と返済予定を加味すると5年後の「現預金」が
ハッキリと見えます。
古田土会計さん、森尾先生から強く指導されるのは「現預金の確保」です。
たとえ黒字でも現預金がなくなれば会社は倒産する。
その厳然たる事実をもとに、将来の時点の現預金を事前に確実に把握すること。
この重要性を改めて突き付けられました。
過去最大の設備投資をする当社は、
たとえてみれば夜の高速道路を猛スピードで突っ走るようなもの。
強力なヘッドライトを当てて視界をクリアに開けておかなければ、危険極まりない。
1年や2年ではなく、5年先のBSと現預金を把握しておくこと。
過去最大のチャレンジをするからこそ、
リスク管理も最大限にせねばなりません。
■ 成功の反対は失敗ではなく、なにもしないこと
こうして財務を学び、将来リスクを計測し、
そしてビジョンから逆算して設備投資を進めること。
そこに経営者としての責任を感じると同時に、大きなやりがいを覚えます。
私にBSの大切さを教えてくれた恩師・故木村勝男会長の言葉を、
やはり思い出します。
・ ぼくは「資金調達」と言うが、皆さんは「借金」と言う。
借金をしたがらない。
そうやない。ヒトを活かし、モノを活かし、カネを活かす。
それが経営、それが起業家。
日本はカネを使える経営者がおらん、だから経済が衰退する。
・ 皆さんは「無借金経営」を自慢する、借金が無いことを自慢する。あほか!
無借金が悪いとは言わん、気が楽や。
しかしそれでは「逆境という先生」がついて来ない。
借金がイヤ?
小っさいし、伸びない。保証してあげる。
・ 成功の反対は失敗やない、何もしないこと。
・ おびえる人は安定を求めとる。
ホームドラマの人生やない、大河ドラマの人生を生きろ!
・ 金活や!
拾うたり、親からもろうたり、宝クジで当たったりしたんではアカン。
苦労して増やす。
カネを増やす過程に葛藤がある。
乗り越えたら自信になる。
■ 挑戦の先にある未来を信じる
昨年まとめた会社の基本指針(コーポレートスタンダード)の中に、
次の項目を入れました。
〔私たちは挑戦の先にある未来を信じています〕
現状維持は衰退を意味します。
過去に何度も大きなチャレンジをしてきたからこそ、今の坂元鋼材があります。
時代の変化に対応した大規模な設備投資、
人材採用と育成、新規顧客の開拓などです。
現状維持に甘んじることなく、未知の領域にチャレンジし続けます。
この言葉をフィロソフィーに入れていたからこそ、
3つ目の土地を即断できました。
理念の力です。
私の25年間の経営人生を振り返っても、最初のプラズマ、次のレーザーと、
挑戦したからこそその後の飛躍がありました。
今回も必ずそうなる。
それにしても、
2年の間に隣接地3カ所というご縁を頂けたことに感謝の念でいっぱいです。
私はこの地で生まれ育ちました。
3カ所ともよく知るご近所さんです。
お譲りいただいた土地は大切に使わせていただきます。
九条の鋼材業の発展に、もっともっと貢献できるよう会社を磨きます。
今年も最大限のお力を、お貸しください。
2025年1月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三