
【町工場から日中関係を考える】
新型レーザー加工機の機種選定を巡って、
中国メーカーを比較検討したことがありました。
当時の逡巡を思い返しながら、
日中関係の過去・現在・未来を考えてみます。
[通算233号]
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
新工場が無事に竣工し、
新レーザー(ドイツ・トルンプ製)が順調に稼働しました。
このレーザー加工機の機種選定では、
日本・ドイツ・スイス・中国と4カ国のメーカーを比較検討しました。
結果としてトルンプを採用して正解だったと得心しています。
昨今の中国をめぐる情勢変化を交えて、振り返ってみます。
■ 中国レーザー、その驚き
新レーザーをどの機種にするのか、何年も検討を重ねました。
本命は2008年から当社でずっと稼働しているドイツ・トルンプ社、
そして対抗馬は日本メーカー3社でした。
そこへ第3の存在として中国メーカーが「伏兵」として現れます。
3年前の夏、東京の展示会で中国のレーザー加工機を初めて見ました。
半信半疑でしたが、実力は日欧メーカーを凌ぐほどの
ハイスペック(高出力・高性能)、かつ低価格です。
彼らは営業熱心でした。
大阪に帰った私たちのところにすぐにやってきました。
実際のサンプルは立派な切断面でした。
世界での販売実績もすでに圧倒的です。
説明を聞き続けるうちに「第3の選択肢」として
真剣に検討せざるを得なくなりました。
そして2度の訪中によって現地メーカー2社を訪問し、
その性能の確かさを目に焼き付けることになりました。
■ 中国メーカー躍進の背景
中国レーザーが伸びた背景は、こうです。
中国は国内市場が巨大で、成長スピードも速かった。
そこでは高価格帯の日本製や欧州製よりも、
中国製が自然と選択される。
その結果、まず国内で相当の実績を積みました。
たとえば日本の三菱電機が年間数百台のところ、
彼らは1社で十倍以上(数千台)も生産します。
そんな会社がいくつも存在する。
量産によるコストメリットがあり、
数をこなすから経験値を積め、腕も上がるわけです。
日本やドイツなど海外の技術者が
中国企業に移籍したことも成長を加速させました。
高度な技術が中国に移植されたのでした。
家電業界や自動車業界など、過去20-30年によく聞いた話です。
実際に我々が中国で本命視したレーザー企業では、
とある日本メーカーの技術陣が相当数、移籍していました。
日本の機械づくりのノウハウ・頭脳が
中国製造業の躍進を支えていたのです。
正直なところ、複雑な思いを禁じえませんでした。
■ それでも中国を選ばなかった結論
機械のスペックや能力では日欧メーカーに比肩する、
あるいは凌駕することがよく分かりました。
しかし最終的にはドイツ・トルンプを採用するに至りました。
理由はシンプルに3つです。
第1に中国メーカーの歴史がまだ浅いこと。
20年以上の使用を前提とした長期耐久性・信頼性があるか、
これが最大要因でした。
2億円規模の投資です、それくらいの期間は十分に稼働させたい。
実際に2008年導入のレーザー1号機(トルンプ)は、
17年後のいまも現役バリバリで動いています。
新興の中国メーカーに長期の実績を求めるのは酷でしたが、
ここは身体的感覚として中国を選べない理由でした。
第2は日本での保守・メンテナンス体制です。
トルンプは日本で長年の実績があり、トラブル対応も迅速です。
短納期を強みとする当社にとって、マシンの保守は生命線。
主力設備が「止まらない」ことは外せない価値です。
そして第3がカントリーリスクでした。
まさかの有事の場合に、
保守部品や消耗品は輸入されるのか、
整備体制は維持されるのか。
テレビや冷蔵庫のように買い替え可能なものならばいい。
しかし2億円規模のメインマシンです。
その生殺与奪を中国に委ねきる自信は持てない。
中国レーザーの実力は凄い。
しかし「主力としての配置はできない」が結論でした。
■ あらためて実感するトルンプの真価
そして昨年10月に新工場が完成し、
トルンプの最新レーザーが到着しました。
稼働して2カ月が過ぎましたが、まさに安定の仕事ぶりです。
スケジュール通りに稼働し、
白濱君や前君を中心に切断データの研究が重ねられ、
マシンの本領がどんどん発揮されています。
最大40ミリ厚の鋼板を見事に切る実力、
切れ味のシャープさ、機械の堅牢性、
夜間でも安心の静粛性など、さすがの高級機です。
これから20年間に渡って当社の主力マシンとして
働いてくれる頼もしさを、日々実感します。
■ 同時に訪れた日中関係の緊張
時を同じくして日中関係に緊張が走りました。
高市首相の台湾有事をめぐる発言をきっかけに、
両国間に波風が立ち始めています。
レアアースの輸出規制など、経済的な応酬も始まりました。
また、以前からソニー、パナソニック、
ホンダ、京セラなどの有力企業が中国生産の縮小を始めました。
中国の政治リスクや人件費の高騰を嫌って、
東南アジアなどに生産を徐々にシフト。
中国への依存度を意図的に下げています。
中国を選ばなかった2年前、
そのときに頭の片隅にあったカントリーリスクが現実味を帯びてきました。
正直な気持ちですが、胸をなでおろしています。
それは中国を避けたことの安堵ではありません。
不確実性を主力マシンに持ち込まなかった選択への得心です。
■ 日中友好は私のテーマ
しかし、です。
中国経済の低迷、日本企業の中国撤退・縮小の様子を見て
「日本が勝った」「中国経済は崩壊」などと喧伝する
論調・風潮にも危惧を覚えます。
日中関係や中国経済をテーマにしたYouTube動画にも、
日中対立を煽るような派手な見出しがたくさん躍っています。
私と中国との関係は、皆さんよく存じてくださっている通りです。
学生時代に2年間留学し、
一時は中国専門の記者を目指して修行した時代もありました。
経営者になってからも幾度の訪中をへて、
経済の側面から中国理解を続けました。
日中友好は私の人生を貫く大きなテーマです。
■ 中国人と中国政府は別である
一方、中国共産党(習近平政権)の強圧的な政治手法は
世界的に警戒されています。
国内の抑圧、台湾など領土をめぐる野心、
覇権体質など、行く末が心配です。
つれて嫌中感情も高まっています。
敢えて、この状況を見て私は
「中国人と中国政府は別」と思うのです。
留学時代、そして社会人になってから出会った
たくさんの中国の友人たちはいずれも誠実で、
隣人として信頼できる人たちでした。
今回のレーザー検討を通じて接した中国のビジネスパーソン、
技術者たちもそうです。
極めて勉強熱心で、誠実で、向上心の塊でした。
外国で、外国語で、難しい技術論を交えながらの根気強い商談です。
若くて勤勉な彼らを見ていて、
未来の中国はまだまだ伸びると実感しました。
かつて50年以上前に日中国交が正常化したとき、
当時の周恩来首相は
「日本人と日本軍国主義は別である」と明言しました。
それは、中国侵略という歴史の負い目がある日本人に対して、
過去を水に流した言葉ではありません。
「歴史を忘れず、同じ過ちを繰り返してはならない」――。
そんな人間的であると同時に、
高度に政治的な言葉だったと、私は受け止めています。
いまの中国政府の態度を見る時に、
この言葉を思い出したいものです。
そう考えると、習近平政権の強権的・覇権的な政治運営は、
結果として中国ビジネスの可能性を自ら狭めているようにも見えます。
■ 経済交流は戦争の抑止力
過去30-40年間に渡って日中の経済的な結びつきは強まりました。
これこそが不幸な歴史を繰り返さない最も大きなブレーキになると、
私は考えていました。
「台湾有事」という物騒な言葉が発せられる昨今ですが、
もしそのような事態になれば、
日中ともに想像を絶する経済的被害が生じます。
中国は日本の最大級の貿易相手国であり、
中国にとっても日本の経済や技術力なしに発展はない。
この「抜き差しならない」関係こそが、
万一の「発火」を食い止めます。
経済的に深く結びついた国同士は、
戦争のコストがあまりにも高くつく。
だからこそ、経済交流は最後の一線を超えさせないための
現実的なブレーキです。
鎖が強いほど、暴発は起きにくい。
だから私は、日中のビジネスが健全に深まる未来を願っています。
その一方で、企業経営では万一に備える責任もある。
今回のトルンプ選択は、その判断でした。
■ 戦略性、情報戦での後手
中国レーザー2社を研究したとき、
日本の技術流出が中国製造業の成長を
バックアップしたことを深く知りました。
1990年代以来、安価な労働力を求めて
日本の製造業は中国に生産拠点を移転し続けました。
加えてバブル崩壊でメーカーからリストラされたり、
高給で引き抜かれたりした優秀な頭脳が、中国に流出しました。
日本は人を手放し、中国は頭脳を欲していた。
結果、安価で質の良い中国製品が世界市場を席捲。
そして日本メーカーが凋落します。
いまや家電量販店を見ると、
液晶テレビや白物家電などは安価な中国製が売り場を席捲しています。
日本は長期的な戦略性、
国家レベルでの情報・人材の扱いにおいて、
後手に回った。
その隙を突くように中国はしたたかに力を蓄えた。
私にはそう思えます。
■ 日本の製造業のこれから
日中の経済関係は潮目が変わりつつあります。
過去の失敗に気づいた日本の製造業は、
クオリティを重視したモノづくりで一層の存在価値を取り戻すでしょう。
当社も品質で選ばれる仕事を続け、
日本経済の復活の一助とならねばなりません。
日本の強みは品質であり、誠実さであり、
長期に渡る信頼性です。
一方で中国に学ぶべきは向上心であり、
戦略性であり、貪欲なまでの成長意欲です。
国と国の関係は短期ではなく長期、
そして引っ越しのできない両国です。
これからも中国に注目しながら日本の製造業としての誇りを持ち、
ものの見方を鍛えてまいりましょう。
2026年1月23日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三