【経営者と公私混同】
毎月25日の給料袋メッセージです。
3年前に同じテーマで書きました(2022年5月)。
改めてこの重いテーマに向き合い、襟を正します。
[通算228号]
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
いつも社業への貢献、ありがとうございます。
今月は社外の勉強会で講師を2回担当しました。
「理念を業績に変換する技術」というテーマでした。
30歳で経営者になって26年目です。
最初の10年間、失敗を重ね続けました。
決定打は40歳のとき、リーマンショック後の大赤字です。
窮地に陥り、ようやく経営を学び始めました。
それから学びを実践し続けた16年間(連続黒字)。
その対比から「経営にとって大切なこと」を考えてみました。
■ 理念もビジョンもなかった30代
先代社長だった父が病で急逝し、
素人の私が経営者になってしまいました。
当時の社員さんは真面目に働いてくださいましたが、
組織として結束しているとは言い難いありさまでした。
軍隊にたとえてみると、
兵隊ひとり一人は優秀でも大将の作戦が悪い。
いや作戦そのものが「無い」と、
いま思うとゾッとするような状態でした。
景気の良い時は黒字でも、不景気になると途端に大赤字。
新入社員は定着せず、10人雇って残ったのは3人でした。
何を目的に、何を目指して経営をしているのか。
これでは社員がいくら頑張っても報われない。
リーマンショックで頭を打ち、
40歳で遅まきながら勉強して教えられたのが
「理念を持て」
「ビジョンを描け」
「目標を掲げよ」
「計画を立てよ」
ということでした。
■ 理念が「浸透」するには?
学びを深め、何年もかかってまとめ上げたのが
コーポレートスタンダード(指針書)です。
過去を振り返り、大切にしたい価値観を深め、
未来への確信を込めました。
経営理念: 良い会社を作り、良い社会を作る
ビジョン: 縁ある人に幸せを感じていただく経営
社是 : 永続
5信条 : 信用・成長・貢献・卓越・団結
では理念やビジョンを定めれば、
それはすぐに実行・実現されるのでしょうか。
額に入れて掲示し、朝礼で唱和しさえすれば
即行動となるのでしょうか?
理念が「浸透」している状態とは、
それらに基づいた行動や言動が社内で自然となされている状態です。
どうなったら理念が浸透し、どうなったら浸透しないのか?
■ 誰も社長のレクサスのためには働かない
41歳でアチーブメントの青木仁志先生に出会い、
理念経営を学び始めたころのことです。
先生は「誰も社長のレクサスのためには働かない」
というセリフをよく仰いました。
当時の私には、実は耳の痛い話でした。
思えば私の子供のころ、父の乗っていた車は
クラウンであり、最後はセルシオでした。
父が他界した後は、父の遺したセルシオを
私は自分の車として乗り回していました。
そのセルシオが不調になったころ、
レクサスに買い替えています。
そうです。
その車両代金も、ガソリン代も、高速代も、
自動車保険も、すべて会社の経費でした。
それで当然だと感覚がマヒしていたのです。
■公私混同は理念に逆行する
当社は同族(オーナー)企業です。
株式は一家ですべてを所有しています。
誰も経営者をチェックしないからこその気の緩み。
いや、問題だとすら気付いてなかった。
経営者には全責任が覆いかぶさります。
会社の借入金には個人の連帯保証が付きます。
26年前、父の死期が迫ったころのこと。
当時のメイン銀行は私個人のハンコをもらいに来ました。
倒産すればオーナーは自己破産、すべてを失います。
経営者は命がけです。
だから「かまどの灰まで自分のモノ」
という意識を持ちがちです。
それが公私混同をまねく土壌になる。
しかし社員の立場からは納得できません。
「同じことを社員がしても許されるか」――。
この視点が私には決定的に欠けていました。
それを「誰も社長のレクサスのためには働かない」
という言葉が射貫きました。
受講のたびにその言葉を聞き続け、苦しくなりました。
レクサスは個人で買い取ることにしました。
代わりに会社で購入したのが営業車(カローラ)です。
あらためて当時の私の公私混同をお詫びいたします。
■ 人に働いてもらってナンボ
青木社長は財布を2つ持ち歩いていて、
社員や役員と食事に行っても、
どちらの財布で払うかを使い分けるそうです。
「きょうは仕事の話ではなくプライベートの話だけだったから」と、
そういうときは個人の財布(ポケットマネー)で出す。
そこまで徹底されます。
人は一人ではしょせん一馬力、
多くの人の協力があって初めて多馬力になる。
私利私欲で経営する社長、
公私混同する経営者に「力を貸そう」とは思いません。
マネジメントとは人を介して仕事をする技術。
経営者の仕事は社員に働いてもらうこと。
ならば、いかに気持ちよく、
いかに内発的にモチベートされて働いてもらうか。
それによって業績は天地ほども違います。
公私混同は内発的動機づけを殺ぎます。
■ 信頼残高を貯めろ!
同じようなことは木村塾(BS経営研究所)の
故・木村勝男会長も仰っていました。
「わしは会社の金で自家用車に乗ったことはない。
一滴のガソリンも入れたことはない」
「会社の金と自分の金をキチーッと分けとる。ごまかすんは嫌い」
「ゼニの使い方を見たら皆さんの信頼残高がすぐわかる」
「公私混同したら信頼残高は増えへん。預金残高は増えるかも知らんが」
さすがに生涯で30以上もの仕事を手掛け、
複数のビジネスを同時に回した経営者の中の経営者です。
「この人のために頑張ろう」といかに思ってもらうか。
その要諦です。
■ 公私混同がはらむリスク
さて、世間一般の話です。
個人の車を「社用車」として購入する中小企業経営者は、
実は少なくないようです。
理由はシンプルで、会社の経費にすれば損金算入でき
(利益が減り)、法人税が減るからです。
「節税」であり損得勘定です。
とりわけ昭和の時代、
多くのオーナー経営者は公私混同していました。
当時はそれが社会的に「普通」
と受け容れられていた風潮もあったようです。
もちろん、昔から公私を潔癖に分ける高潔な経営者もいます。
青木先生や木村会長がそうです。
しかし世間の大半は「会社の車は社長の車」という考えだった。
これは税務的には完全にアウトで、
税務調査で否認されるリスクが高い。
そうなると金融機関からの信用も失墜します。
節税どころではない。
損金算入して利益を削るわけですから、
自己資本も貯まらず、会社は強くならない。
何より社員からの信頼を失うことが最大のリスクです。
大将だけがいい思いをしている軍隊で、
兵士は命懸けで戦いはしません。
■ 理念ある経営、理念なき経営
40歳から再出発し、過去の無知や蒙昧を改める16年間でした。
いろんなことを反省し、少しでも真っ当な人間になりたい。
「いい加減な人間に立派な組織は作れない」――。
これも青木先生の言葉です。
我流経営だった10年間、試行錯誤の連続だった16年間。
そこから見えてきた私なりの理念経営の原理です。
・ 理念経営は利他を出発点とし、社員の結束を生む。(求心力)
・ 公私混同は利己を出発点とし、社員の離反を生む。(遠心力)
■ 新工場が落成へ!
そのような試行錯誤を続けた結果、
15年連続で黒字を重ねました。
財務状況は見違えるほどに良くなりました。
この財務の蓄積を背景に今回の8億円規模の
新工場計画(2棟)が実現します。
金融機関が強力にバックアップしてくださっています。
まさに理念が数字に置き換わった瞬間です。
来月、いよいよ新工場(1棟目)が落成します。
そこに最新鋭のレーザー加工機が導入されます。
大赤字に瀕した16年前から考えると夢のような現実です。
まさに社員の皆さんの結束のたまものです。
心から感謝し、これからも経営者として修練していきます。
引き続き、お力をお貸しください。
2025年9月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三
▲ 尊敬する中西栄仁社長(フロンティアホールディングス株式会社)
の勉強会で、講師を務めます。