【給料は高く、人件費は低く】
きょうは給料袋のメッセージを書きました。
どんな不況が来てもビクともしない経営を目指して、
考えてきたこと、みんなで実践してきたことを書きました。
[通算183号]
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
先日、業界紙の鉄鋼新聞社さんに当社の記事を書いてもらいました。
離職が9年間ゼロというものです。そこに至った背景を振り返ります。
■ わからなかった売り上げ目標
これまでに何度も書いてきたとおり、リーマンショックで会社は苦境に陥りました(2008年)。
その翌年に私が飛び込んだのが「なにわあきんど塾」。1年間の経営スクールでした。
30歳で3代目を継いでから40歳でリーマンショックに遭うまでの10年間、
まさに我流経営で会社を迷走させました。
そんな私にとって、あきんど塾は学びの原点です。
卒塾に向けて「中期経営計画書」を作るのですが、それが書けなかった。
売り上げ目標を考える授業の時に鉛筆が止まりました。
もともと当社は売り上げ規模3-4億円。
それがリーマンショックで2億円台に落ちますが、それを5億、10億、20億と増やしていくべきなのか。
小さくすることを求めてはいないが、
売り上げは大きくなければだめなのか、会社は大きいほうがいいのか。
何が正しいのか。
サッパリわからなかったのです。
正直に吐露すると、私には会社を大きくすることへの漠然とした「恐れ」がありました。
あきんど塾で机を並べた友人が
「大きい会社よりも『強い会社』を目指したい!」
と言ったのが耳の底にこびりついています。
そうだ、と共感しました。
では強い会社とはなんなのか、それが分かりませんでした。
■ 私の「恐れ」の正体
あきんど塾を出た直後、私が出会ったのがアチーブメントの青木仁志先生でした。
経営の目的、そして人生の目的を深く考えます。
私はオーナー経営者です。
会社の全責任を負っています。
だから経営と人生は不可分です。
「どんな不況でもビクともしない会社を作りたい」
それが、どうしても成し遂げたいことでした。
目的を考える中で過去を振り返りました。
会社を大きくすることに対する私の「恐れ」の正体。
それは、バブル崩壊後に社会人となり、
新聞記者として数々の倒産記事を書いた経験に由来しているように思います。
29歳のときに父が他界して坂元鋼材の3代目となってからも、
身近な会社が倒産するのをいくつも目撃しました。
とりわけ、父の社葬に際して葬儀委員長を務めてくださった、
当時業界を代表する存在だった立派な社長が倒産して自己破産したこと。
あんな大社長までがあっけなく倒産してしまうのを目撃し、その恐怖感が体に染みついたのだと思います。
アチーブメントの学びでは「目的という土台から一貫した目標設定」を考えます。
どんな不況にもビクともしない会社にするための目標(数値)は何かを必死に考えました。
売り上げは必要です。
しかし、多ければ多いほど良いのだろうか。
会社は大きいほど安心なのか。
俗に、こんなことも言われます。
「中小企業と屏風は広げると倒れやすくなる」
「中小企業とデンボは大きくなるとつぶれる」
いったい何が正解なのだろうか?
■ 1人当たりの自己資本額
アチーブメントを学び始めた翌年に出会ったのが故・木村勝男会長(BS経営塾)でした。
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売上の大きい会社が強い会社ではない。
社員の多い会社が強い会社でもない。
1人当たり自己資本の大きい会社が強い会社!
会社は2種類のお金で成り立っている。
他人のお金(負債)と自分のお金(自己資本)。
自己資本は創業から積み上げてきた会社の内部留保(返さなくてよい自分のお金)。
これが多ければ多いほど安定する、つぶれにくくなる。
その自己資本額を社員数で割ってみろ。
社員1人当たり1000万円の自己資本があったら、
地震や津波、リーマンショックなんかで2年間売り上げがゼロでも社員に給料を払える、
その間に会社を立て直せる。
まずは社員1人当たりの自己資本額1000万円を目指せ!
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この言葉を聴いたとき、目の前の霧がパーッと晴れていくようでした。
当時は1人当たり400万円未満でした(社員13人で自己資本5000万円)。
これを1人当たり1000万円の自己資本額にする。社員13人なら1億3000万円。
それだけの自己資本を貯めるには、どれだけの利益が必要か?
それだけの利益を出すためには、どれだけの売り上げが必要か?
その逆算から「売り上げ目標」が生まれ、ようやく経営計画書が作れました。
目的から一貫した目標。数字に魂が入った瞬間でした。
あれから10年ほどが経ち、いま1人当たり2300万円(社員15人で自己資本3億5000万円)。
理論上は4年間売り上げゼロでも給料を払えます。
これは目的を明確にした結果です。
目標設定の不思議な力です。
私の恐怖感はずいぶんと小さくなりました。
■ 人数を増やし過ぎることの弊害
「社員1人当たり」の目標設定ですから、社員数(分母)をいたずらに増やさないのがポイントです。
社員数をむやみに増やしてしまうと、組織が肥満になる。
設備投資も同様です。
人が多すぎたり、設備過剰だったりすると、どうなるでしょうか。
仕事が少なければ人も機械も遊びます。
いきおい、引き受けてはならない仕事をせざるを得なくなる。
すなわち、採算度外視の仕事です。
その結果、ろくな利益は出ず、社員への還元もできない。
あげくは倒産・廃業。
そんな風景を過去20年間に嫌というほど見てきました。
納得のいく仕事をし、きちんと利益を確保する。
そうでなければ社員が不幸になる。
長時間労働と低賃金から幸せな職場は作りえない。
目指すのは第一に社員の欲求充足であり、幸せな社員がお客様を満足させてくれる。
この順序が大事です。
アチーブメントの青木先生は、
「社員幸福度、顧客満足度、社会貢献度、この3つを追求すること」
と説かれています。まさに企業が目指すべき3つの目標だと思います。
■ さまざまな「社員1人当たり」
目標達成のためには社員の皆さんの協力が欠かせません。
そのために勉強会を重ねました。
目指したい方向性をともに考え、社員1人当たりという思考法の重要性を説きました。
決算書(とくにBS)の勉強会もしました。
1人当たりの自己資本、1人当たりの経常利益、1人当たりの給料。
その源泉は1人当たり粗利(付加価値額・加工高)であること。
いずれも分母(社員数)の小さい方が経営上は有利であること。
「給料は高く、人件費は低い」経営を実現したいこと。
最少の人数で最大の粗利を稼ぐことが最も強い経営になること。
それらを説き続けました。
■ モデル人材の登場
少ない人数で仕事を回すには一人が何役も出来なくてはならない。
リーマンショック以前はそれが困難でした。
人に仕事が固定されていた時代が長くありました。
この人はこの仕事だけでよい。この仕事はこの人しかできない。
そんな不自由な時代が長く続いていました。
その理由を考えてみると、そもそも「そういうものだ」という長年の慣習、思い込みがありました。
それを打破してくれたのが現工場長の前君でした。
最初は工場でガス溶断をしていましたが、
会社がプラズマを導入するとプラズマを担当し、レーザーを導入するとレーザーを動かし、
さらに必要なCAD/CAMを習得し、挙句は事務所に入って受注業務や値段付けまで自主的に覚えました。
この彼のスーパーマンぶりが、会社のモデルとなりました。
彼を原版にして、後輩たちが育ちました。
「複数の仕事を身につけて当然」という文化が生まれたのです。
■ 教え合いを阻むもの
一人何役もの仕事が出来るためには「教え合い」が必要です。
しかし、それは簡単になされたものではありませんでした。
社風がいまほど良くはなかったからです。
「社風」とは面白い言葉で、まさに風通しです。
風は目に見えませんが、社風は目に見えます。
人間関係の障害がいくつもありました。
これは、過去に私が社員教育や理念浸透を怠ったツケでした。
それも私の我流経営10年間の「病歴」です。
あらためて至らなかった過去を反省しています。
風通しの悪い職場で教え合いなどは進みません。
職人の世界では昔から「見て盗め」という言葉があります。
これは「教えない」と半分宣言しているようなものです。
一方、いくら教えても本人にその気がなければモノにはならないという側面もあります。
伸びる子は教えなくても勝手に伸びていく。前君がそうでした。
しかし、本人の資質だけに任せるのは、ギャンブルのようなものです。
経営は博打ではない。
■ 社風を良くする努力
目指すべき方向性を示し、モデル人材を明確にし、多能工化を進めたのがこの10年間でした。
業績を良くする前に社風を良くすること。
社風を良くするには良好な人間関係が欠かせないこと。
目を見てしっかりとあいさつすることがすべての基本であること。
人間関係が大切と言っても、なにも全員が全員に対して親友になれと言っているわけではありません。
「人間関係のトゲ」は小さくあってしいということです。
これがあると、目を見てあいさつすることすら困難になる。
小さな伝達事項すら、きちんと伝わらなくなる。
まして自分の知識やスキルを教えてあげようなどとは、ならない。
年度末の360度評価で、
「あいさつ」
「社内の水質維持」
「人間関係のトゲを小さくする努力」
という項目を重視しているのはそのためです。
みんなが地道な努力を積み重ねた結果が、いまの社風です。
教え合いが進み、複数の仕事を高度にこなすスーパー人材がどんどん生まれました。
その結果としての12期連続の黒字であり、社員1人当たりの自己資本2300万円であり、
離職ゼロ9年ということです。
■ 最後は社会貢献
社員幸福度、顧客満足度、そして社会貢献度です。
より多くの貢献が出来るためには、規模は大きいほうが良い。
「1人当たり」の指標が充実して初めて組織や会社も拡大できる、と考えます。
当社の改革も12年が過ぎ、ようやく次のステージを迎えようとしています。
「1人当たり」の思考をこれからも守り続けながら、さらに大きな価値を提供できる出来る会社を目指します。
今月も社業への貢献、ありがとうございました。
2022年9月22日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三