逆風下の挑戦 [給料袋メッセージ 231]

【逆風下の挑戦】

 

きょうは冬季賞与の支給日です。

「20年に一度級」とも言えそうな構造不況に警戒しながらも、

大型投資に踏み切った背景をつづりました。

 

[通算231号]

 

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

きょうは冬季賞与の支給日にあたり、

ことしの景況感から振り返ってみます。

 

天候には異常気象があり、つねには一定しないものです。

自然を相手にする農業のように、私たち製造業もまた、

変わり続ける外部環境を相手にビジネスをしています。

 

景気循環、技術革新、アジア情勢、人口動態、産業構造など。

どれ一つとして同じ姿ではありません。

 

■ 2025年は「20年に一度級」の構造不況か?

 

ことしの鉄鋼業界は「20年に一度級」の構造不況と思えます。

いま直面しているのは単なる「景気の冬」ではなく、

気候そのものが変わってしまうような

「構造不況」と言えるでしょう。

 

いくら春を待っても、

以前と同じ春は来ないのかも知れません。

 

2010年代、日本の粗鋼生産量は「1億トン超」を維持していましたが、

2019年の米中経済摩擦を境に8千万トン台に落ち込みました。

いまも7〜8割の水準に留まっています。

 

建設需要の減少、住宅着工の低迷、中国の過剰供給など、

景気要因と構造要因が重なりました。

 

「リーマン直後以上に厳しい」

と業界でも声が上がる一年でした。

 

■ 廃業ラッシュ

 

近年は当社にまつわるたくさんの会社が廃業しました。

 

そもそも2023年に当社が買った隣地1カ所目(A社さん)、

2カ所目(店子のB社さん・大家のC社さん)、

そして2024年に買った隣地3カ所目(D社さん)が、

そろっての廃業です。

 

それぞれが九条を地盤に長い業歴を有した鋼材加工業でした。

この地で生まれ育った私にとっては、

いずれもが子供のころからよく知る会社であり、

地元の原風景でした。

 

この1年は廃業ラッシュがさらに加速しました。

 

大正区のE社さん、

港区のF社さん、G社さん、

近所のH社さん。

すべて当社と同じ鋼板加工の老舗です。

 

さらに関係先では電気工事業のI社さん、

そして外注先としてお世話になってきたJ社さんも今年廃業しました。

 

それぞれに大阪の鉄鋼業・製造業を支えてこられた長寿企業でしたが、

次々とその歴史に幕を下ろしました。

さみしさとともに危機感を覚えます。

 

当社の業績も、今年はリーマンショック以後では

コロナ初年度に次いで厳しいものです。

売上高は前年を1割以上も割り込んでいます。

 

これまで維持してきた利益水準を守れるかどうか、

まさに正念場です。

 

 

 

 

 

■ 未来を見据えた先行投資

 

そんななかで10月には第4工場が竣工し、

念願のレーザー新型機がお目見えしました。

当社の歴史に残る一年です。

 

さらに来年は第5工場を建設し、2次加工の拠点とします。

この景気後退局面で第5工場を着工すべきか思案しました。

しかし予定通りに前進させます。

 

そして今年はもう一つ特筆すべきことがありました。

外注先だったJ社さんの廃業にともない、

同社の看板マシンだった大型ラジアルボール盤を譲り受けました。

大石君が2カ月に渡って同社に出向し、技術を仕込んでもらいました。

 

当社の事業領域は大きく拡大します。

J社さんが半世紀以上に渡って蓄積された加工技術を

継承させていただきます。

 

当社の強みが増し、業界にもっと貢献できます。

 

20年に一度クラスの不況下にあって、

こうした強気にも見える先行投資。

 

これが可能になったのは過去15年以上にわたる

経営改革のたまものでした。

 

リーマンショック直後の大赤字(2009年度)

により目が覚めました。

 

そこから15期連続の黒字を重ね、

財務体質を強くしました。

 

農家にとって天候予測が難しいように、

製造業にとっても景気を読み切るのは至難の業です。

 

だからこそ

「どんな不況にもビクともしない強い会社」

を目指してきました。

 

振り返ると、リーマンショック後にⅤ字回復が可能だったのは、

その直前に投資していた第3工場とレーザー初号機(合計3億円)が

フル稼働したからでした。

それなしに過去15年間の躍進は考えられません。

 

 

 

 

 

■ 不況こそ絶好のチャンス

 

逆風下の先行投資は、のちに必ず意味を持ちます。

現在の大型投資は未来を切り開くための仕込みです。

この厳冬期が明けた先に、必ずや力強く未来をけん引します。

 

経営の神様・松下幸之助は

「不況またよし」という名言を残しました。

不景気の時にこそ「本物の経営力」が問われる

とおっしゃっています。

(松下幸之助ドットコム)

 

―――――

 

好景気とは駆け足をしているようなものだ。

他に目が移らないから欠陥があっても目につかない。

一方、不景気はゆるゆる歩いているようなものだ。

前後左右に目が移るから欠陥に目がつき、修復訂正ができる。

 

景気が悪く商品が売れないときは

アフターサービスを徹底する、社員教育に力を注ぐなど、

不景気なりに利点がある。

 

不景気で停滞しているときに努力をすれば、

「不景気こそ千載一遇のチャンス」にもなる。

 

―――――

 

この言葉には、これまで何度も励まされました。

思えば当社の歴史を振り返っても、

この言葉の正しさがわかります。

 

リーマンショックという大不況によって、

当社は生まれ変わりましたから。

 

■ 新規顧客数が「過去最高」

 

今年は売上高こそ足踏み状態ですが、

明るい兆しも見えました。

 

新規顧客の開拓が、

他社の廃業のおかげもあり大きく伸びました。

 

会社とは放っておけばつぶれるもの。

推進力を失えば落ちる飛行機と同じです。

だから新規顧客の獲得、マーケット開拓は生命線です。

 

リーマンショック以後、特に営業に力を入れて

新しいお客さんを呼び込んできました。

 

毎月1件(年間12件)が目標です。

足で稼ぎ、飛び込み営業も重ねました。

 

しかし数年もすると目ぼしいお客様は回り尽くし、

ネタ切れで困りました。

それが2020年(コロナ初年度)でした。

 

あらためて勉強し直し、

営業専用のホームページ開設を決意。

そして2021年に新HPがオープンしました。

 

WEB対策に注力し、

従来のプッシュ営業(当社からの売り込み)から、

プル戦略(お客様からの問い合わせの呼び込み)に転換したのです。

 

社内で知恵を出し合って営業HPを充実させました。

大石君が現場の仕事と並行して新規開拓営業に飛び回りました。

その結果、新規顧客数は伸びていきました。

 

● 新規顧客数の推移

 

2016年:13件

2017年:11件

2018年:13件

2019年:10件 (米中貿易摩擦、鉄鋼需要に陰り)

2020年: 4件 (コロナ初年度、鉄鋼需要が激減)

2021年:14件 (営業HP新設)

2022年:15件

2023年:13件 (隣地2カ所を購入)

2024年:26件 (隣地3カ所目。他社廃業で顧客増加)

2025年:33件 (12/5時点。他社廃業で顧客増加)

 

■ コロナ禍でまいた種が、実る

 

コロナ初年度は営業がままならず、

人の交流が遮断されました。

その結果がこの数字に如実に表れています。

 

その時に苦労して研究した成果が、のちに現れました。

 

「不況期にこそ顧客は動く」と言えるのかもしれません。

「ゆるゆると歩いているときは前後左右に目が移る」

わけですから、お客様も新たな仕入れ先を研究されるのでしょう。

 

顧客の求める水準は年々厳しくなります。

その要求に応え続けることでしか選ばれません。

 

「何も咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。

やがて大きな花が咲く」

 

私は昔からこの言葉が大好きで、

状況の厳しい時はいつも思い返しています。

 

不況期に歯を食いしばって努力したことは、

後になって必ず結果が出ます。

いまもまた辛抱の時です。

 

 

 

 

 

■ 厳冬期の心がまえ

 

こうして振り返ると、

私たちのやってきたことに確信を持つことができます。

 

「社員力 × 設備力 × 集客力」――

 

この3つが揃うと、不況下でも新規顧客は増える。

むしろ不況だからこそ顧客の流動化が起こったのです。

 

いくら構造不況と言っても、

鉄鋼製品は世の中から絶対に必要とされるものです。

いま落ち込んでいる分の仕事は、やがて戻ります。

 

そのときこそ、この増えた顧客数がバネとなって

切断量は必ず伸びてゆく、そう確信します。

 

その近未来に向けて、

不況期にしかできない種まきと地盤固めを、

これからも一緒に続けてまいりましょう。

よろしくお願いいたします。

 

2025年12月5日

坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三

 

[この記事のFacebookページ]