【陰徳がもたらすもの】
きょうは給料袋のメッセージを書きました。
社員の皆さんの日ごろの見事な働きぶり、向上心、仲間を思う心。
そのおかげで会社が好循環にあること。そこへの感謝を述べました。
[通算179号]
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
いつも社業への貢献、ありがとうございます。きょうは、会社の日常風景から「働く姿勢」について考えてみます。
■ ある朝の光景
先週のある早朝でした。7時半ごろだったか私が事務所に入ると、A君が事務所のモップ掛けをしてくれていました。
こころよい驚きでした。
ふだんはBさんやCさんといった事務所メンバーが率先してやってくれているものです。
この日はたまたま二人とも欠席でした。
彼の出勤時間はいつも7時ごろ、社内でも早いほうです。
始業時間(朝礼の開始)が8時15分ですから、
いつも1時間ほど早く出勤してプラズマ加工機を掃除したり、仕事の段取りを付けたりしてくれます。
そんなA君ですが、先週から腰痛が出たため一時的に事務所の仕事に替わっています。
だからかどうか、事務所のモップ掛けを自主的にしてくれたのでした。
■ 仕事と仕事の間の小さな仕事
会社には「誰の仕事」と決まったわけではない仕事がいくつもあります。
トイレや食堂など職場の掃除から始まり、ゴミ出し、洗車、夏の麦茶づくり、
さまざまな整理整頓、落ちているゴミを拾ったり、ときには植木の刈り込みも。
それらは取り立てて「仕事」とは呼べないかもしれません。
しかし、そんな「隠れた小さな仕事」を誰かがやってくれているからこそ会社は回っています。
誰に言われずとも、誰が見ていなくとも率先してそれをやってくれる心。
それがとても尊く、ありがたい。感謝の気持ちでいっぱいになります。
■ 伝説の巨匠・橋本さん
思えば、そんな小さな仕事を率先してする水質を作ってくれたのが
伝説の職人・橋本さん(在職期間2000年‐2012年)でした。
橋本さんは勤めていたT鋼材が廃業したため、当社に移籍されました。
すでにこの道25年以上になる生粋の溶断職人で、見事な仕事ぶりでした。
橋本さんが入社される前年、先代社長だった私の父が病で他界しています。
かつて当社はT鋼材に溶断品を外注しており、父は橋本さんの丁寧な仕事ぶりを知って、ほれ込んでいました。
「社長、T鋼材がやめたら雇ってな!」
「おう!」
という会話が父との間でなされたかどうか、そんな話を橋本さんから聞いたことがあります。
橋本さんが当社に移籍されたのは偶然かも知れませんが、
ひょっとすると自分がいなくなって困っているだろう私を助けるために、
あの世から父が橋本さんを招いた気がしてなりません。
経営者1年生だった私を、橋本さんは主力職人として支えてくれました。
その丁寧な仕事ぶり、溶断の巨匠ぶりが遺憾なく発揮され、
「橋本さんが切るから坂元鋼材に仕事を出す」というお客さんまで現れました。
当社の技術水準を飛躍的に高めてくださったことは、
いくら感謝してもしすぎることはありません。
そんな橋本さんは毎朝、誰よりも早く出社されました。
そして自分の機械の清掃はもちろん、トイレ掃除まで率先してなされました。
その謹厳実直なお姿に頭が下がりました。
橋本さんは入社して半年ほどのころ、
「よく知っている子がいる」と一人の若者を紹介してくれました。
それが現工場長の前和彦君です。
彼は橋本さんからプロの溶断技術だけでなく、
仕事への心構え、考え方、立ち居振る舞いなど、ありとあらゆる無形の資産を受け継ぎました。
そして誰にも負けない努力を重ね、いまの彼が出来上がっています。
■ 事務所のプロフェッショナル・糸井さん
仕事と仕事の間の小さな仕事といえば、
事務所を30年間支えてくれた糸井さん(在職期間1986-2016年)も忘れることができません。
糸井さんは「工場の稼働が最優先」という考えから、
夕方まではお客さんとの電話対応(受注・納期確認)と工場の生産調整に掛かりきり。
そして午後5時に工場が閉じてから、自分一人で処理できるコンピュータ作業(伝票入力)に集中されました。
まさに全体最適をとことん追求した仕事ぶりでした。
そのため残業は午後7-8時までが常態化していました。
いまのように人員を増やしておればもっと楽に働いていただけたのではないかと、
社長として大いに反省しています。
「忙しいのが大好き」というのが糸井さんの口ぐせでしたが、私はその言葉に甘えていました。
それほどの忙しさにもかかわらず、事務所内のさまざまな雑事や工場の麦茶づくりなどを黙々とされました。
そんな糸井さんのことを前君は「事務所にも職人がいる」と評していました。
プロフェッショナルとしての気脈が通じたのでしょう。
そのような歴代のプロ社員たちが作ってくれたのが坂元鋼材の社風です。
あらためて先達たちに感謝をささげます。
■ 勉強、教え合い、環境整備
そんな良き社風がもたらしたものが「少数精鋭主義」です。
少人数で仕事を回すためには一人ひとりがいくつもの業務が出来るようにパワーアップせねばなりません。
そこで必要なのが「教え合い」であり、それを可能としているのが良き社風です。
なぜか?
そうです。人が見ていなくても進んで周りに貢献したり、
主体的に自分を成長させようとする人には、周りからの応援や協力が集まるからです。
だから、いまの社内は至るところで教え合いが進んでいます。
仕事中に少し時間が空くと別のマシンの習得、訓練をしています。
事務所ではPC処理(CAD・CAM)、経理、値段計算などの教え合いです。
今年3年目を迎えるA君・D君という最も若い世代を見ていても、
その向上心と貢献意欲は見事なものです。
数カ月前のこと。
彼らが中型運転免許を取ったころは、昼休みや終業後に会社のトラックで自主練習していました。
先輩がそれに付き添って応援です。
最近はタイピング(ブラインドタッチ)の練習をして成果を競い合っています。
彼らが早朝から仕事の準備をしたり、職場をキレイにしたり、
自らの成長に余念なく取り組んだりする姿を見ていると、本当に尊いことだと思います。
橋本さん、前君、糸井さんを源流とする良き流れが、このように若い社員に受け継がれています。
■ 陰徳が生む信用
彼らを見ていると「陰徳」という言葉が思い浮かびます。
「見返りを求めることなく人知れず善行を行う」という意味です。
損得勘定ではなく会社全体のこと、みんなのことを考える尊い心を感じます。
必ずしも自分の仕事と決まっているわけでもない仕事をすること、
自分の労力を自主的に周りに差し出すこと、
それは一見すると「損」に思えるかもしれません。
しかし、そうではありません。
そのような人は周りから好かれます。
すると自然と援助が生まれます。
助けたい、教えたい、伸ばしたい、と協力者が次々に現れます。
陰徳を積む人には周りから「信用」という無形の資産が与えられます。
それがいずれは目に見える成果となります。
目に見えないものが目に見えるものを作っています。
これを「陰徳陽報」と言います。
実は回りまわって大きな得をしているのです。
■ 良き社風がもたらす好業績
A君もD君もまだ二十歳、これからの前途が本当に頼もしい。
こういう姿勢の社員はきっと伸びていきます。
彼らだけではありません。社歴を重ねた若手たち、中堅たち、そして幹部級の人材まで、
みんながそれぞれに良き社風を体現してくれています。
私は人に恵まれた幸せな経営者です。
先日、第70期の決算書が出来上がったのでメイン銀行に報告に行きました。
過去最高の業績でした。
さらに同業他社と比べても利益率、安全性ともに高いポジションにいます。
銀行から「なぜ、これほどの高収益なんですか?」と質問されました。
私は「少数精鋭主義のおかげです」と即答しました。
それを可能にしたのが良き社風です。
経営者としての私の仕事は、縁あってこの会社に集ってくれた社員の皆さんの力を最大限に引き出し、
それをまとめ、社会に貢献し、その代価としていただく収益を最大化させ、
それを皆さんに還元することです。
その善循環をスムーズにするのが、仕事と仕事の間にある小さな仕事を主体的に行う尊い心です。
陰に陽に貢献していただいていることに心から感謝申し上げます。ありがとうございます。
2022年6月24日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三