本物の理念経営から学ぶ = 山口銘菓・豆子郎

【本物の理念経営から学ぶ = 山口銘菓・豆子郎】

 

アチーブメントの学びの友・田原文栄さんが常務を務める会社、山口県の銘菓「豆子郎」(とうしろう)さんの会社訪問ツアー。アチーブメントQCC(クオリティ・カンパニー・クラブ)による充実の学びの2日間でした。

 

 

創業69年になる理想的なファミリー企業。創業者の思いをつなぐ経営、人を大切にする経営のお手本でした。真に素晴らしい会社の実際をこの目で見て、その基準の高さ、経営の上質さに大きな感銘を受けました。

 

この学びを自社にどう活かすか。また宿題が増えました。田原さんはじめ豆子郎の皆さん、アチーブメントの青木社長、お世話していただいた福岡営業所の森本さん、学びの同志の皆さん、ありがとうございました。

 

■「そこに理念があるから不可能が可能に」

 

・同社の工場はなんと午前2時から始まる。なぜこんな深夜、いや「超早朝」から稼働するのか。それは朝一番に開く新幹線・新山口駅の店に出来立ての味を届けるため。そして「作ってから10時間くらい経った頃がもっとも美味しい」という豆子郎を、おやつの時間である午後3時に最高の状態で食べていただくため、ということからの逆算でもあるとのこと。その「味」へのこだわりが午前2時の始業です。私たちが見学した午前6時は、出来立てのお菓子が次々に包装され、自動車に積まれて県内各地に出荷されようとする段階でした。こんな早朝に黙々と働く社員さんたち。ひるがえって自社を考えたとき、それが如何にお客様のためになるとしても「午前2時」から工場を開けることができるだろうか。わが身(わが社)のことをどうしても考えてしまいました。

 

・「そこに理念があるからそれが可能になっている。社員への遠慮があれば、迷いが生じる」。アチーブメント青木社長の解説です。豆子郎の経営理念の第1番目にある「美味しさを通じてお客様の喜びと幸せに貢献する」をまさに体現していた超早朝の工場でした。

 

・「経営には求心力があれば遠心力もある。『求心力』とは社員への思いやりであり、優しさであり、配慮。一方の『遠心力』は我であるとか利己的な心。豆子郎さんは『社員が幸せな企業』だから真の求心力が働いている」(青木社長)。だからこそ普通では躊躇するような時間帯での操業が可能になっているのでした。

 

 

■「あなたに身代金なんて払わないわよ」

 

・今回とてもとても深い印象を頂いたのが田原さんのお母様。75歳の現在でも早朝の工場に立たれておられます。創業者の娘さんであり、お父様である初代社長の理念を体現されておられます。その凛とした佇まい、本質を突いたスパッとしたご発言に大いに感銘を受けました。

 

・その昔「グリコ森永事件」が起こった時のこと。大人でも誘拐されるんだ、と思った田原さんがお母さんに聞きました。「もし私が誘拐されたら、犯人に身代金をいくら払ってくれる」と。お母さんの返事が振るっていました。「そんなの一銭も払わないわよ。あなたをここまで育てるのにどれだけ掛かったかわかってるの? そうして将来何億でも稼げる娘に育てたんだから。逆に犯人にお金を置いて行ってもらわないと。あなたも犯人に言ってやりなさい。私を生かしておいた方が得よ、いくらでも稼げるからと。そのくらい犯人と交渉しなさい」

 

■売上ではなく、中身 = 全国販売をやめる

 

・かつて東京・大阪・福岡といった全国のデパートなどにも卸していた豆子郎。遠隔地で売るために日持ちのする密封包装で商品を販売しました。ところが「味が変わったのでは?」というお客様の声が。大量生産の結果、返品・廃棄の比率も大きかった。丹精込めて作った商品が返されてきて自分たちで処分するのも辛かった。考え抜いた結果、全国販売を中止。そして山口県内の直営店のみの販売、という方針に大転換しました。全国展開による売り上げ3億円を捨てたのです。しかし無駄な生産を見直した結果、逆に8000万円という大きな利益を生んだとのことです。「売上げを追うのではなく、中身を充実させる。人から親しまれ、求められる商品であること」。この現在まで続く豆子郎のスタイルが確立した瞬間でした。

 

・「会社を大きくしたいんではない。売り上げを大きくしたいんではない。売上より大切なものがある。商品を愛しているんです」(田原さん)

 

 

■「商品はかわいい」 = お母様の言葉

 

・早朝の工場を案内してくださるお母様。「貧乏だった時代を知っている。苦労はしないといけない」。だから朝一番から、どこよりも早くから工場を開ける。出来上がったばかりの豆子郎を手にして、ひとこと。
「商品はかわいい」

 

・「会社を大きくしたいのではありません。創業者だった父への感謝。ここまでのものを残してもらって、本当に有難いことです」

 

・「お金は10億円あったとしても、使ったらすぐになくなってしまう。会社は違う。なんとしてでも残していくもの」

 

・「創業者の父も『会社を大きくしなくていい。分にあった方がいい。それが一番長続きする』と、こちらが気負わなくていいような言い方をしてくれました」

 

・「家庭がぎくしゃくしていたら、社員に優しくなれない。身内が仲良くすることが大事」

 

 

■理想のプライベートカンパニー

 

創業者の思いを継承し、会社をはぐくんでくれた山口という土地と文化、そして社員とお客様を大切にする心。「理想のプライベートカンパニー」と評した青木社長の言葉を、本当にその通りだと思いました。

 

「当たり前のことを当たり前にする。それを誰よりも大切にする」――。田原さんのお母様の言葉です。この「原則経営」の大切さを教えていただきました。

 

山口で学んだ経営の原則を、大阪で私も実践します。
充実の2日間、本当にありがとうございました。