散歩のついでに富士山に登った人はいない [給料袋メッセージ93]

【散歩のついでに富士山に登った人はいない】
きょうは25日。給料袋のメッセージを書きました。
20年後の会社をイメージして「登る山」を想像してみました。
(通算93号)

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

いつも社業への貢献、ありがとうございます。

 

今月の社内会議で「20年先を考える」という話をしました。いま全国の社長の平均年齢が61歳で、それは年々上昇しているそうです(30年前の平均は50代前半)。社長が高齢化する理由の一つが後継者がいないということ。事業をなかなか次の世代に渡せないから、自分がいつまでも社長をするしかないわけです。当社は私が今年47歳ですから平均よりもずいぶん若い。しかし20年先を考えるとどうでしょうか。私も67歳になります。

 

先月、無事に長男が誕生しました。中小企業の社長の長男だからよく「後継ぎ」とみられます。この私自身も2代目社長の長男として生まれましたから、子供のころから「お前は後継ぎ」と暗黙のうちに期待されて育ちました。生まれたばかりの赤ちゃんを見ていると自分自身の半生が重なります。いまは女性社長が大いに活躍する時代ですから、今月で5歳になる長女も同様の存在です。「生まれたばかりの赤ちゃんや5歳の幼児の意思を尊重しなくていいのか」という根本的な話は、今日はひとまず置いておきます。

 

この後継者問題は日本社会にとってとても大きな問題です。全国の企業の平均寿命は23年だそうです。それは社長の世代交代が出来るかできないかが大きな分かれ目のためでしょう。無事に次の社長につなげれば企業はさらに存続します。リレーや駅伝のようにバトンやたすきをつなぐこと。これが会社存続のカギです。

 

会議では「第4代社長は誰か?」というズバッとした話もしました。生まれたばかりの長男ですから、仮に彼が社長を「やる」と決めたとしても「やれる」のはいくら若くても25歳から30歳ごろ。一方で私は72歳なり77歳になっています。この現実を考えると、いろんなことを考えてしまいます。

 

一般的に社長が65歳を過ぎて後継者がいなければ、その会社の信用は落ちるそうです。お金を貸す銀行も警戒します。自然なことでしょう。実際のところ、先代社長である私の父は62歳で他界しています。生物としての私も日本人男性の平均寿命から逃れられません。72歳、77歳までの現役続行を「必須の前提条件」と考えるのは会社としてリスクがあまりにも高い。長男が後継者になるにしても、10年程度は「中継ぎ社長」がいるし、その人物の存在が会社の信用をバックアップします。私の身に万一のことがあっても、安心です。そして長男や長女が継ぐ意思と能力に欠けた場合、第4代も、第5代も、第6代も、ずっと社員出身の社長が承継していく会社にならねばなりません。同族であれ非同族であれ、いずれにしても「経営者が育つ会社」になることが大きな目標です。いや、経営者が育って初めて「続く会社」です。当たり前のことですが。

 

20年先といってもピンと来ないかもしれませんが、案外早いものです。それは20年前を考えればわかります。阪神大震災やオウム真理教事件が1995年ですから、ほぼ20年前。これくらい近い感覚です。

 

20年後、皆さんはいくつでしょうか。いま20代前半の若手社員なら40歳過ぎの働き盛り。30代前半の中堅社員なら50歳過ぎで脂の乗ったころ。今年ちょうど40歳の前君でも60歳、仕事人としてこれから円熟を迎える年齢です。

 

かつて「散歩のついでに富士山に登った人はいない」という話を紹介しました。散歩も登山も「歩く」という行為自体は同じように見えますが、これが落とし穴。隣の人は実は富士山に登ろうとしているかも知れない。富士山の頂上まで登る人は富士山に登ろうと思っているから頂上まで登れるのであり、散歩のように何も考えずに歩いていると富士山どころかたいした場所にも行けず、ただ流されてしまうかもしれない。大事なのは努力そのものでなく「目的にかなった」「目標のある」努力である、という話でした。日々の仕事を一生懸命にすることは尊い。けれどもそこに目的・目標意識があるかどうかで5年先、10年先、20年先の姿は大きく違うわけです。

 

最近、妻の代りによく幼稚園に子供を送り迎えします。親子参観にも出てきました。小さい子供は本当に「今のこと」しか考えていません。おもちゃを買ってあげたとします。それをすぐに外で開けたがります。小さい部品がバラバラになるので「家に帰ってからね」と言っても「イヤ!いま!」。テレビは絵日記を書いてからね、と言っても「イヤ!いま!」。懇談の時に先生が言っていました。「幼稚園児はせいぜい明日のことくらいまでしか考えませんから」。なるほど、考えてみれば「計画的な幼児」「目標が明確な5歳児」なんていませんし、いたら逆に恐ろしい。これが私たち人間のもともとの姿なのでしょう。

 

ちなみにこの私も本当に人生の目標を持ったのは恥ずかしながら40歳を過ぎてからでした。

 

2016年8月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三