【人には無限の可能性】
きょうは24日。給料袋のメッセージを書きました。毎月のこの文章を書く切っ掛けを頂いた中井政嗣社長(千房株式会社)の講演を聴いて感動したことをまとめました。
(通算111号)
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
先月末、「若手鉄鋼人 四団体交流会」という催しが大阪で行われました。東京、名古屋、そして新潟の鉄鋼関係者をお招きしました。私たち大阪が今回のホストで、この数カ月間、私も準備に奔走しました。その記念講演で「お好み焼き・千房」の中井正嗣社長にお話していただきました。
中井社長のことは、この月給文章でも何度も触れたので、皆さんにもすでにおなじみのことと思います。昭和20年奈良県のご出身で、中学を出てすぐに尼崎の乾物屋へ丁稚奉公。やがて小さなお好み焼き屋を始め、それがいまや海外も含めて65店舗、年商63億円。「なぜそうなったか、自分でも分からない」。その一代記を語っていただきました。
企業発展の過程で取り組まれたのが社員教育でした。非行少年・少女と呼ばれる若者をたくさん採用し、立派な店長や幹部にまで育てました。
「一流企業に行く人と比べたらアカン。来てくれた人に感謝して人財に育てる。中小企業は教育産業です。比べず、焦らず、あきらめず」
「飲食業、学歴や学業成績は問われないが人間性は徹底的に問われる」
「育てているつもりが、逆にたくさんのことを学ばせてもらった。彼らとともに育ってきた」
その結果が、お好み焼きチェーン日本一。
そんな中井社長がいま改めて取り組んでいるのが元受刑者の雇用です。9年前、法務省から受刑者を就労させてほしいという依頼が来ました。「今は大卒も入り、敢えてそういう人を採用しなくてもいいような会社になった」。しかし千房の人財育成の実績を知った法務省からの直々の依頼でした。
受刑者一人には年間250万円から300万円の経費が掛かるそうです。しかし出所したものの5年以内に再犯で戻ってくるのが6割、そのうち7割が無職。だから就労支援がいかに大事か。「出所してちゃんと働くと税金を使ってきた者が納税者に変わる。上下大きい」
刑務所を視察してみると「もう一回そういうことをやってみたい」という気持ちが沸き起こってきました。「あの頃は活気に満ちあふれていた。いまは可もなく不可もなく。あの当時の活気はどこに行ったのか。もう一回やってみたい」
しかし経営会議はもめました。「客商売、怖がられたらアカン」「応援してくれるお客さんもいるかも」と賛否両論でした。しかし中井社長は「損か得か」ではなく「善か悪か」で判断しました。最終的には社長がすべて責任を取るということで決着します。
「振り返ったらいろんなひとに目(めぇ)掛けてもらってん。支えられてん。だからいまがある。経営も教育もマラソンではない、駅伝。自分がしてもらったことを次にバトンタッチしたいと思わないか」
そして刑務所で採用募集が始まりました。まず会ったのが4人。一人90分の面接。
「アカン、情が移る、断れなくなる。4人とも泣かされました。すべて家庭崩壊。『こんな女に誰がした』という歌があるけど、こんな人間に誰がしたのよ。100%罪をとがめることが出来なかった」
「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる。反省は一人でも出来るが、更生は一人では出来ない。みんなの力がいる」
このように人財育成に並外れた熱意を傾ける中井社長には、原点があります。ほかならぬご自身のことです。
「実家は貧しい農家。兄、姉、妹、弟はみな成績がいい。『出来の悪い子供ほどかわいい』と言うけど、それは嘘や。私は放ったらかしやった。全国展開真っただ中の時、『俺こうなるなんて考えられたか』とお母ちゃんにさりげなく聞いた。『まさかお前がこうなるなんて夢にも思わんかった』。私のこと誰よりも知っている母親ですらわからんもん。ああ、人間て無限の可能性を持ってるんや」――
中井社長の言葉に無限の優しさを感じます。借り物で無いほんまもんの話が会場を打ちました。講演会は大成功でした。
さて、その講演の数日前に、私は幹事役として千房本社に中井社長を表敬訪問しました。熱心にいろんな話をしてくださり、予定の時間を超えるほどでした。
「今朝もちょうど女性の受刑者を迎えに行ったばかり。十年以上も刑務所に入っていて、ようやく娑婆に出てきた。何が食べたいか聞くと『焼肉』と答えた。でも寿司屋の前を通ったら『やっぱりお寿司が食べたい』と言う。トロの握りをほおばると、涙をボロボロッとこぼした。十何年ぶりのトロの味はどんな味か。刑務所の苦労はどんなか・・・。そんなことを考えていると、すし屋の親父さんが『ワサビ、きき過ぎましたか?』と聞いてきた(笑)」
ひとの思考には大きい小さいがあり、広い狭いがあり、そして深い浅いがあります。中井社長の考えることは本当に大きく、広く、深い。身近に接して、そう実感しました。会社が発展したことを「なぜそうなったか、自分でも分からない」とおっしゃいました。しかし、それは明白です。その考え方、すなわち「器の大きさ」そして「人としての優しさ」がその最大の理由であると思わざるをえません。
私は7年前になにわあきんど塾で中井社長の講演を聴きました。すでに二十年以上も続けておられるという「月給袋メッセージ」のことを知り、その翌月から私もまねました。それが7年半続き、100号を超えたことをご報告しました。中井社長、とても喜んでくれました。そしてご自身がメッセージを書くときに使う「万年筆ペン」をプレゼントしてくださいました。パソコンで書く私と違って、中井社長は毛筆です。
あとで秘書の女性がこうおっしゃいました。「中井が万年筆をプレゼントする姿はいままで見たことが無い」。名誉なことです。中井社長、本当にありがとうございました。これからもそのご姿勢を見習い続けます。
2017年11月24日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三