【利他は連鎖する】
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。
「働き方改革」で有給休暇の取得を進める社会的な動きが高まっています。
規模の小さな会社がどうするべきか、社員の成長から大きな答えをもらいました。
(通算129号)
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
いつも社業への貢献、ありがとうございます。あらためまして本年もよろしくお願いします。
この年末年始の学習会(会議)では、恒例となった去年1年の振り返り、そして今年の目標を社員全員で述べ合いました。
社内改革が始まってもうすぐ10年になりますが、社風が本当に良い方向に変わってきました。
それを象徴するのが「教えあい」と「助けあい」です。
社員の皆さんによる今年の目標公言でも、新しく身につけたい業務に対する抱負をたくさん聞きました。
思えば、かつては社員ごとに業務がかなり固定されており、お互いの仕事のカバーがなかなか出来ませんでした。
それゆえにチームワークもいまほど働いてはおらず、結果として長い休みが取りづらい職場でした。
昔からいてくれる社員の皆さんには、本当に不自由をおかけしました。
そこに最初に風穴を空けてくれたのがリーダー格のA君でした。
2000年に入社してすぐのガス熔断から始まり、2002年には私の最初の大きな買い物(プラズマ)を担当し、見事に軌道に乗せました。2008年には次の大規模投資であるレーザーに移り、それも大成功に導いてくれました。
それと並行して事務所のCAD/CAMだけでなく、営業の値段付けも自発的に覚えました。
だからA君は製造と営業に関する仕事をほとんど一人で網羅する能力を身につけています。
すると誰かが休んでも彼がバックアップに入ってくれるようになりました。
それを見習って他の社員も自分の出来る業務を増やそうと努力し続けてくれました。
良い循環が始まったのです。おかげで有給休暇を取りやすい職場に徐々に変わりつつあります。
会議の席上でもそのことへの言及がいくつもありました。
「家族のことで有給休暇をたくさん使った。現場の皆さんに感謝しています」(B君)
「去年は有給休暇を29日も使った。こんだけ休みを頂け、こんだけ休んでも仕事が回っている」(C君)
このB君とC君の感謝の気持ちは、そのまま私の感謝の気持ちです。
特にC君が10年以上もメインを張ってくれたCAM業務は、工場のプラズマとレーザーを回す要のポジション。
野球にたとえるとキャッチャーのような存在です。
短納期を売りにしている当社にとっては、まさに司令塔。
彼の替わりはA君しかできない。
だから長きに渡ってC君の「分身」を作ることが全社的な課題でした。
しかしC君の業務能力が高まれば高まるほど、分身を作ることのハードルが高まりました。
その困難を見事に乗り越えてくれたのがDさんです。
この数年来、C君から少しずつ業務を引き継ぎ、そしてもう1年以上も単独でポジションを守っています。
だからC君の「こんだけ休んでも仕事が回っている」という言葉には、ズシリと重みを感じます。
Dさん、本当にありがとうございます。
同様のよい流れが、工場でも事務所でも展開されています。
他の社員の業務を学び、教えあうこと。会社が目指してきたのは、まさにこの状態でした。
● 自分の業務を肩代わりする「分身」を増やす。→ 自分が有給休暇を取りやすくなる。
● 他者の業務を肩代わり出来る「分身」になる。→ 他者に有給休暇を取りやすくさせる。
このあたりのことを会議で出た言葉から拾ってみます。まずは若手から。
「去年はEさんの所に1週間学びに行け、その後はBさんの所も学べた。Fさんにもたくさん助けられ、勉強する時間をもらえた」(G君)
「今年はBさんからガスを学ぶ。最初の1カ月は一緒についてもらい、その後はBさんがEさんの所に学びに行けるようにする」(H君)
「今年もプラズマ、レーザーのCAMが中心。一人でやるのでなく周りの力を借りる。ほかの人(Aさん)の発想を取り入れ、効率を追求する」(Dさん)
「大きな目的はIさんを楽にさせること。そのために経理を学ぶ」(Jさん)
「NCのCAMをDさんから学ぶ。Cさんが休んだ時、もし自分が出来るようになればDさんを助けれる」(Kさん)
「納品書の作成を覚えて人の助けになるようにする」(Lさん)
中堅の言葉も頼もしいものです。
「社長が社長にしかできない仕事に専念できるように、社長の仕事を肩代わり出来るようにする。新規開拓も一人で行き、社長に報告するような形にする」(Mさん)
「Dさんのおかげで手を空けれるようになった。今度は自分が、Jさんが経理を覚えれるようにJさんの替わりが出来るようになる。Mさんが社長と出かけれるようにMさんの仕事を覚える」(C君)
「今年はレーザーに戻る。この歳で一人でやるのは結構ハード。でも残業でなく時間内でやる姿勢を見せる。背中を見て若い子が何かを思ってくれたらいい。単にやるだけでなく『本気で学ぶ』という意識があれば3カ月でも1カ月でもモノになる。中途半端なら何年やってもダメ」(A君)
そして教える側であるベテランの発言も渋くて深い。
「B君と連携してNCのプログラムを深める。お客さんの複雑な要求にさらに応えていく」(Fさん)
「今年5月で定年だが、新しい社員が定着するのを見届けてから辞める。B君、G君に出来る限り教える。僕だけでなく周りの意見も聞き、自分が一番いいというやり方を覚えてほしい。最終的にええ品物ができればいい」(Eさん)
「学ぶ」「教える」「助ける」というセリフが噴出しています。
A君が常々言っています。
「複数の業務が出来るようになって良いことは、人の気持ちが分かるようになること」
深い言葉だと思います。
出来る業務が増えることで知覚が広がり、気づきが鋭くなるということです。
相手の立場にたつ、ということにも通じると思います。
彼はさらにこう言いました。
「去年もう一つ良かったことは、配置移動のアイデアを僕でなくB君主導で進んでやってくれたこと」
これまで現場を引っ張ってきたリーダーシップそのものを、今度は後輩が身につけてくれていることを喜んでいます。
そのB君のセリフも、またいい。
「配置移動は、たとえるとサッカー。自分の持ち味を生かして定着できるようにポジションを取る。競い合いではないが、おのずと周りとも切磋琢磨でき、会社も強くなる」
このあたりのことを顧問コンサルタントの立道岳人先生は「人に仕事をつけるのでなく、仕事に人をつける理想の状態」と評されました。
経営上もきわめて合理的で効率の良い状態です。
さて、社員の話を聞いていて思い出したのは「利他」という言葉です。
私がこの言葉を知ったのは40歳を過ぎて経営を学んでからのことでした。
現代を代表する名経営者・稲盛和夫さんの著書で、次のような話が紹介されていました。
「天国と地獄の長い箸」という有名な説話です。ご存知の方もいらっしゃるでしょう。
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天国と地獄の世界を見てみた話です。
どちらの住人もたくさんのごちそうを囲んでいる。
ところが手にしているのは背丈ほどもある長さの箸。
地獄の住人たちはその長い箸を使って料理を食べようと必死。
でも食べることが出来なくて、せっかくのごちそうを目の前にしていてもガリガリにやせ細っている。
ところが天国の方を見ると、その長い箸を使って目の前の人に「はい、どうぞ」と食べさせている。
食べさせてもらった人はお返しに、また他人に「はい、どうぞ」。
だからニコニコと幸せに暮らしてお腹も一杯。
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どうやらこの話は仏教が出典のようで、さすがに僧侶でもある稲盛氏です。
この稀代の経営者が大事にされてきた言葉の一つが「利他」と言うことです。
このようにおっしゃっています。
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私たちの心には「自分だけがよければいい」と考える利己の心と、「自分を犠牲にしても他の人を助けよう」とする利他の心があります。
利己の心で判断すると、自分のことしか考えていないので、誰の協力も得られません。
自分中心ですから視野も狭くなり、間違った判断をしてしまいます。
一方、利他の心で判断すると「人によかれ」という心ですから、まわりの人みんなが協力してくれます。
また視野も広くなるので、正しい判断ができるのです。
より良い仕事をしていくためには、自分だけのことを考えて判断するのではなく、まわりの人のことを考え、思いやりに満ちた「利他の心」に立って判断をすべきです。
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社員の皆さんの発言を聞いていて「利他は連鎖する」と思いました。
いや、これはコインの裏表のようなもので、もし利己的な心があればそれもまた伝染しやすい。
そう考えると、いまの社風がなんとありがたいことか。感謝の気持ちをまた覚えずにはいられません。
今年もよろしくお願いします。
2019年1月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三
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【写真】 「仏教辞典」より http://bukkyouwakaru.com/dic/s34.html