経営者は管財人 [給料袋メッセージ 130]

【経営者は管財人】
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。経営者になって20年。この間に悩んだ「2つの値決め」について考えました。
(通算130号)

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

きょうは少し神妙な告白になります。私が3代目社長になって今年で20年です。父の逝去により急ごしらえで経営者になりました。いろんな困難に直面し、分からないことばかり。なかでも2つの「値決め」について大いに悩むことになります。

 

1つ目の値決め。それはまさに鉄を商売するうえでの価格設定です。当時はバブル後の金融不安が極まった頃で、鉄鋼相場は歴史的な安値水準まで下がりました。当社の手掛ける溶断品でも驚くほど安い見積もりが出回ったり、粗悪品が横行したりと、非常に苦戦しました。いったいどんな値段で売ればよいのか。商売人としての経験も浅かった私は、そのずいぶん後に経営と営業を本気で学ぶまでは、確固たる考えを持てずに迷走したものでした。

 

私が悩んだもう1つの値決め、ズバリそれは皆さんにお支払いしている給与と賞与です。値決めと言ってはたいへん失礼ですが、本質的に考えるとそう表現せざるを得ません。

 

■ 経営者とは「給料を払う側」

 

経営者については「事業主」や「使用者」という言い方がありますが、この文脈では「給料を払う側」と言えます。給与計算で「査定」というドギツイ言葉を使うことがあるように、まさに人の働き方を値踏みしているわけです。

 

ちょっと想像してみてください。もし皆さんが給料を払う立場ならメンバー(社員)のだれに対していくらをお支払いしますか。その基準には、方法には、どんなものがありますか。

 

そう、給与の付け方には無数の「やり方」があり、そこに経営者の意思が流れ込みます。

 

社員の皆さんは、人生そのものである時間を会社に差し出し、全身全霊で職務に当たってくださっているわけです。それを値踏みすること。まさに神をも恐れぬ所業です。罪深い行為とも感じています。

 

経営者になった20年前から、賃金制度を考えるさまざまな学びやセミナーに何度も出ました。しかし、まだ最終的な確信には到達していません。なにが正解なのかを常に考え続けながら経営しています。社員の皆さんの立場になれば納得いかないことであるでしょう。

 

■ 生活を守ること、貢献に報いること

 

そんな迷いの給与計算ですが、私が心がけているのは「生活を守る」ことと「貢献に報いる」ことです。やり方には無数の方法がありますが、この「在り方」だけはブレることはありません。

 

20年前に私が経営を預かってから数年後のこと。最初の設備投資(プラズマ)が成功して経営が軌道に戻ってからは、年度末に決算賞与を出すようになりました。税金を払って残る最後の利益の一部をお返しするわけです。年度ごとの最終利益は変動するため、毎年の決算賞与の原資(パイの大きさ)は変わります。それを社員の皆さんの顔を思い浮かべながら配分し、お出ししてきました。

 

ある頃から私は、この3回目の賞与のことを本当の意味のボーナスと考えるようになりました。夏と冬の賞与は「生活を守る」という性格が強いので、大きくは変動させない。

 

それに対して決算賞与は、世間の動向(相場や景況)に影響され、その年度の会社全体の努力が数字に色濃く反映し、さらに財務が安定して初めて出せるものです。メリハリのある出し方が可能です。振り返ると、申し訳ないことにリーマンショック後の4年間は出すことができませんでした。だから決算賞与を復活できた時は実は私が一番うれしかったのです。

 

そのように、この決算賞与は「本当のボーナス」として私の日ごろの感謝を表す報奨金のように捉えるようになりました。しかしその感謝ですら金額にせねばならない。どう表現すればいいのか。

 

■ 会社の大切にしたい考え方

 

決算賞与が復活したころに始まったのが「360度評価」でした。ほかの社員の目から見て各自がどう評価されているのか、それを明らかにする試みです。結果は本人へフィードバックして成長のための一助とする、という位置づけです。

 

この360度評価を始めて数年になりますが、各人の得る点数にはかなりのバラつきが現われています。しかし、これを直接そのまま給与や賞与に反映させることは出来ません。評価手法としてまだ発展途上であること、そして社員の全員が評価者としての訓練を必ずしも受けているわけではないためです。だから私が最終的に金額を決めるときの参考にとどめています。

 

この360度評価のための各項目は「会社の大切にしたい考え方」を表しています。次の5つです。

 

① あいさつ
・ 相手の目を見て、明るいあいさつが、自ら進んで出来ている(特に朝一番と退勤時)。
・ 声をかけられた時、明るくハッキリと返事している。
・ お客様に好印象を与えようと努めている。
・ あいさつは職場の潤滑油であり、素直さのバロメーター。

 

② チームワーク
・ 仲間がたいへんな時、または自分が「手すき」のときに仲間を応援している。
・ 仲間を手伝えるように「新しい業務」の習得に努力している。

 

③ 業務スキル
・ 業務遂行能力・技術力。高いほど良く、高い分野が多いほど良い。
・ スキルはどの分野の仕事でも三段階に分けて評価する。
[A] 優れたレベルで出来て、しかもそれを人に教えている。
[B] 優れたレベルで出来る。
[C] 一人で出来る。

 

④ マインド(素直さと向上心)
・ 素直に自分を成長させようという心が感じられる。
・ 新しい仕事を学んでいる(または教えている)。
・ 困難な仕事にチャレンジしている。

 

⑤ 信頼性
・ 仕事をキッチリとやり遂げてくれる。      〔業務の確かさ〕
・ 人が見ていなくても手を抜かずに仕事が出来る。 〔裏表の無さ〕
・ 感謝の言葉をいつも口にしている。       〔朝礼での報告〕
・ ミスの報告を率先して出来る。         〔朝礼での報告〕
・ 自分の非を素直に認めることが出来る。     〔自責の心〕
・ 「利他の心」を行動や言動や態度から感じることが出来る。

 

■ 陰徳について

 

決算賞与では、狭い意味での「業務」を超えたところでの貢献に対して私の感謝を示したいとも考えています。

 

「陰徳」という言葉をご存知かと思います。辞書を調べると、こうあります。
―― 人に知らせずひそかにする善行。かくれた恩徳。
―― 「陰徳あれば陽報あり」(陰で善行をおこなう者は、必ずよい報いがあらわれる。) 

 

例えば社内美化、こまめな整理整頓、自分を成長させるためのさまざまな努力、あるいは社内の人間関係を良好に保つさまざまな配慮(水質維持のための心がけ)などが、それです。あくまで一例で、それこそ無数にありえます。

 

営業や製造・制作といった直接的業務に対して、この陰徳とは会社を良くするための間接的努力とでも表現できましょうか。

 

鉄板を切断・販売して利益に直結する実際の仕事が「果実」とすると、そのための技術(ノウハウ、スキル)は枝や幹にたとえることが出来ます。その枝や幹を支えるのは根っ子(マインド)であり、それは土の下に隠れています。しかしこの根っ子は、狭義の業務以外のところでのさまざまな言動・行動・態度・立ち居振る舞いなどとして顔を出すのではないか。それに敏感になって気づきたい。私には見えない社員の良いところを知りたい。これが360度評価を始めたとても大きな動機です。

 

評価項目を改めて眺めてみると、狭義の業務に関する項目のほうが少ないのに気づきます。それは私がこの「陰徳」を大切に考えているからです。あいさつ、チームワーク、マインド、信頼性は、まさに枝や幹を支える根っ子だと思います。

 

■ 経営者は「管財人」?

 

経営者とは、社員が一生懸命に働いて勝ち取ってくれた利益を一時的に預かり、それを「会社の大切にしたい考え方」に沿って精密に計算して分配する管財人とも言えそうです。

 

社員のA君はよく「ぼくたち社員ひとり一人は社長に労働力を売っている」と言っています。ここからは一個の人間として自立した非常に鋭い考え方を感じます。リーダーとしての彼の日ごろの働きぶりの鋭さは、こうした考え方から来ています。これも根っ子のひとつです。
彼の話を聞いていて思い出すのは、次の2つの言葉です。

 

「給料はもらうものでなく、稼ぐもの」
「自分の給料を決めているのは自分の働き方」

 

だからこそ、社員の皆さんの日々の尊い働きを、いかに曇りなく鏡のように正確に金額に表現することができるか。この終わりのない実務にもっともっと力を注いでまいります。

 

今月は少々弱音の、しかし本音の吐露になってしまいました。
日々の社業への貢献に感謝いたします。

 

2019年2月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三

 

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