不況またよし [給料袋メッセージ 140]

【不況またよし】
きょうは25日。給料袋のメッセージを書きました。今年は春先から業況が振るいません。そんな時こそがチャンスかもしれません。
[通算140号]

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

いつも社業への貢献、ありがとうございます。
9月末で今期も半分が過ぎましたが、業績はややスローペースです。過去最高益を重ねてきたこの数年に比べると、目標の数値にとどいていません。鉄鋼業界全体として春先から不振の声が聞こえていましたが、いよいよ当社にも及び始めています。

 

夏場にかけて仕事量が激減し、7月は収支トントン。8月に至っては仕事量が7割まで落ち込み、なんと経常赤字に転落してしまいました。単月とはいえ赤字となるのはリーマンショックの余波のあった2010年度以来、9年ぶりのことです。

 

■ 10年前の苦境

 

リーマンショックを知らない20代の若い社員が増えました。「100年に一度」と言われたあの経済危機の時は、仕事量が半分以下にまで激減。通年での営業赤字は9000万円となりました。

 

しかも前年に大きな借金をしてレーザー工場を作ったばかり。財務の健全性を示す自己資本比率は10%を切ってしまいました(借金が多く、他人のカネ9割・自分のカネ1割という心細い状態)。

 

当時私は40歳でした。先代社長の急逝により30歳で社長交代し、10年して業績がようやく落ち着いたタイミングでした。しかし景気が悪くなると業績も途端に悪くなる。これではいけない。

 

「景気が良くても悪くてもビクともしない会社にしたい」と切実に思いました。
それが経営を学び始める出発点であり、経営改革の発端でした。

 

景気は循環するものです。2-3年くらいの小波、5-10年くらいの中波。この時は「100年に一度」と言われた危機。少なくとも数十年規模の荒波でした。だからこそ、私も本気でした。

 

■ 会社を変える試み

 

私が取り組んだのは大きく4つでした。

 

① 会社の目指す方向性を突き詰めたこと
 (経営理念の策定と浸透、目標の明確化)

 

② お客さんを増やすこと
 (新規開拓と既客の深耕)

 

③ 人を育てること
 (採用と育成)

 

④ 社風を良くする様々な取り組み
 (社員旅行などのイベントや、学びの導入)

 

そしてコミュニケーションを重視しました。毎日の朝礼、週刊新聞、毎月の学習会(兼・全体会議)が主軸でした。この月給袋メッセージで経営の方向性をともに考え続けることも、それです。

 

業績は徐々に回復して9年連続の黒字。いま現在の自己資本比率は65%(他人のカネ35%、自分のカネ65%)という安定した財務状態になりました。実質、無借金です。全社一丸となった10年間の結果です。皆さんのご協力に感謝しています。

 

■ 不況またよし

 

しかし今年に入ってからの業況の悪化です。鉄鋼業界だけでなく、知り合いの業界の話を聞いても、やはり景気は下降しつつあるようです。

 

この10年間の経営環境はよかったものの、マイナス金利や株の買い支えなどによる人為的な景気底上げの面が否めません。時間軸からみても小波でなく中波がやってきても当然です。私たちの好業績も、やはり外部環境の良さに支えられていました。

 

さあ、今度もどう立ち向かうか。

 

思い出すのが、パナソニック創業者・松下幸之助氏の 「松下電器は不況のたびに伸びてきた」 という言葉です。一代で巨大企業を築き上げた松下氏には、不況に対する金言がたくさんあります。いくつか拾ってみます。

 

「不況のときこそ会社発展の好機である。商売は考え方1つ、やり方1つでどうにでもなるものだ」

 

「不況はちょうど大暴風雨にさらされているようなもので、少しも濡れないでいくというような、そんなにうまい方法はない。ここはやはり濡れるのもしかたがない、そう覚悟を決めて、とにかくあわてずうろたえないこと。そうでないと出るべき知恵も出ず、かえって深みにはまりかねない」

 

「景気の悪い年は、ものを考えさせられる年。だから心の改革が行なわれ、将来の発展の基礎になる」

 

私たちのこの10年間を振り返ると、胸に迫るものがあります。もしリーマンショックによる大打撃がなければ、私はここまで会社経営に本気になっておらず、甘えた感覚をいつまでも引きずっていたはずです。そう考えると大不況に感謝です。あれがあったから、いまがある。

 

■ 10年伸びたら危険

 

松下氏は、こうも言っています。好業績による気の緩みを戒めるものです。

 

「不況に直面してただ困った、困ったと右往左往せず、むしろ不況の時こそ面白いと考える。気を引き締めて真剣になるから道も見つかるのだ。10年上手く伸びている会社があるとしたら危険だと考えた方がよい。10年上手くいったら必ず緩んでいるものだ」

 

「不況は贅肉をとるための注射である。いまより健康になるための薬であるからいたずらにおびえてはならない」

 

まさに、10年間好業績を刻んできた我が社に対する警句です。
また、業績が下降した今だからこそ響くものがあります。なまじ調子のいい時に読んでも、それほど気にも留めなかった言葉です。

 

「好不況に限らず、当たり前といえば当たり前のことだが、結局 “日ごろが大事だ” ということである。好況時には少々不勉強であっても、少しくらいサービスが不十分でも、お客はあまり気にせずにどこの商品でも買ってくれる。だから経営の良否ということはそれほど吟味されなくてすむ。ところが、いったん不景気になると、お客の目は厳しくなる。商品が吟味され、経営が吟味され、 商品の品質・価格・サービスなど、わずかな違いが大きな差を生む。だから、日ごろからお客に喜ばれる良心的な商売をし、きめ細かなサービスをしている会社やお店は、好況にはもちろんいいが、不況になればそのよさが見直され、かえってお客が増える。つまり、不況にはさらに伸びる、 まさに “不況またよし” というわけである。そのように、好不況にかかわらず日ごろからなすべきことを着実になしてきた会社・商店は、不況になったからといって心配する必要はないというわけである」

 

仕事がヒマになってお客様の選択眼が一層厳しくなった今こそ、私たちが選ばれるかどうかが試されるということです。私たちは質(クオリティ)と短納期(スピード)に磨きをかけ、お客様の立場にたつこと(ホスピタリティ)を心がけてきました。いまこそ、蓄積した真価が問われます。

 

引用を続けます。

 

「好景気の時は駆け足をしているようなものである。一方、不景気の時は、ゆっくり歩いているようなものである。駆け足の時はほかに目が移らないから、欠陥があっても目につかない。しかし、ゆっくり歩いているときは、前後左右に目が移るから欠陥が目につき、修復・訂正が出来る。つまり、景気が悪く商品が売れないときは、それまで手が回らなかったアフターサービスを徹底したり、社員教育に力を注ぐ機会になる。だから不景気にもそれなりの利点がある」

 

ここまで読んで思いつくのは、タイムマネジメントでいう「第2象限」です。重要だけれども緊急でないこと。忙しい普段では、ほったらかしや後回しにしてしまう領域のことです。

 

仕事に追われる状況ではないからこそ、新しい技術を身につける職場間移動がさらに進む。社員面談もじっくりと出来ます。遠方のお客さんを訪ねることも可能です。マニュアルの整備、片付けや整理整頓も出来ます。将来戦略の練り直しにもたっぷりと時間を掛けれます。

 

そう考えると仕事の減少にも感謝できるというものです。この余裕時間をどう使うかが、会社の将来を決めます。

 

■ 苦は楽の種

 

当社の創業者である私の祖母・坂元はるの口癖は 「楽は苦の種、苦は楽の種」 でした。作者不詳で古来より伝承されてきた民衆の知恵ですが、とても勇気をもらえる言葉です。「不況またよし」の心意気に通じます。焼け野原の大阪に田舎から再び上がってきて、ゼロから商売を立ち上げた祖父母たちの苦労と決心がしのばれます。

 

幸いにも過去10年間の好業績のおかげで自己資本が充実し、資金の余裕が生まれています。松下幸之助流「ダム経営」の基礎が出来ました。「景気が良くても悪くてもビクともしない会社」になりつつあります。

 

自己資本が10%を切っていた10年前とは余裕(経営の安全性)がまったく違います。実質無借金ですから少々のことであわてなくても大丈夫。そして9月は若干の黒字に戻り、10月も同様の流れです。

 

これからの「10年の計」を図る気構えで、長期的視野に立ってじっくりと仕事を深掘りすること。人を育て、サービスを磨き、お客様の声に耳を傾け、そして社内の連携をさらに強めてまいりましょう。

 

来週からも、どうぞよろしくお願いします。

 

2019年10月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三

 

※ 松下幸之助の見方・考え方 (PHP研究所)、不況に勝つ12の知恵(同)、佐藤悌二郎氏の論考「不況における松下幸之助の研究」などから引用しました。

 

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