繁盛するお店、衰退するお店 =加賀屋から学ぶ= [給料袋メッセージ 145]

繁盛するお店、衰退するお店
(日本一の旅館・加賀屋から学ぶ)

 

きょうは25日、給料袋メッセージを書きました。
社員全員で行った和倉温泉の加賀屋、そこで考えたことです。
[通算145号]

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

今月は社員旅行で石川県・和倉温泉に行ってきました。遠路、おつかれさまでした。

 

日本海の旨い魚を食べる、温泉につかって日ごろの疲れをいやす、社員どうしの親睦を深める。

ここまでが本来の目的ですが、今回は「日本一の旅館」と称される加賀屋に泊まって仕事の「在り方」を学ぶのもねらいでした。

 

私が初めて加賀屋を訪れたのはちょうど3年前、小田禎彦相談役や女将のリーダーから直接お話を伺いました。

著名な経営者である小田氏にはさまざまな名言や発言がネットや書籍にも残っています。

それらを総合して加賀屋の経営哲学をたどってみます。

 

■ 繁盛する旅館、衰退する旅館

 

私が坂元鋼材を経営して20年超、いろんな会社を見てきました。

どの業界でも繁盛する会社とそうでない会社があることが、ずっと不思議でした。

同じ業界、同じ日本、同じ時代、その差を分けるものは何なのか?

 

日本経済は過去30年、厳しい試練が続いています。

旅館業界もバブル崩壊後はたいへんな状況だったはず。

老舗の大型旅館が苦境に陥るニュースをいくつも目にしてきました。

 

和倉温泉は決して交通の便のいいところではなく、金沢から車で1時間以上も掛かる。

しかも加賀屋は「後発の小さな旅館だった」らしい。

それが「プロの選ぶ日本の旅館 36年連続第1位」となり、いまや和倉温泉を訪れるお客さんの半数が加賀屋に泊まるそうです。

 

「昔は凄い老舗がたくさんあった。ところがバブル崩壊後には軒並み経営難となり、外資(ハゲタカファンド)に買収され、格安チェーンなどに取って代わられた」と小田氏は述懐します。

 

■ 旅館業の本質とは何か?

 

小田氏は仕事の本質を「お客様が抱えている問題を解決すること」と明言しました。

 

「お客様は皆が安いものをほしがっているわけではない。『自分たちの需要を満たしてくれる本物』をきっと探しておられるはずです。ですから自分たちのターゲット・マーケット(対象購買層)を見つけることが大切です」

加賀屋では温泉旅館というビジネスを「明日への活力注入業」と表現しています。

 

「旅館は何を提供するのか。ああ、つかれた。めし、風呂、寝る、ラクしたい、楽しみたい。そんな基本がしっかりと組み上げられていたか、それが売値としっかり見合っていたか」

 

「お客様には自分だけを特別扱いしてほしいという気持ちがあるもの。人と一緒ではイヤ。ビールも銘柄、焼酎も銘柄・飲み方・割り方、ひとそれぞれ。紅茶も、コーヒーも、魚の焼き加減も。うんちくだらけ、こだわりだらけ。それに応え続けた。一歩先を読む気働きが大事」

 

だから加賀屋のモットーは 「笑顔で気働き」 です。

 

それはサービス業だけでなく、お客様が人間である以上、我々のような製造業にも通じるはずです。

 

■ サービスの定義

 

加賀屋の代名詞ともなっている「おもてなし」は次のように定義されています。

 

「表には現れていない相手の意思をくみ取り、先回りし、現実のものにして差し上げること」

 

だから「対価を求めず、相手の喜びを自分の喜びとする」心が必要であると説かれました。
このあたりが繁盛する旅館の心の在り方に違いありません。
「サービス」の定義はホームページにこう書いてあります。

 

「プロとして訓練された社員が、給料を頂いてお客様の為に正確にお役にたって、お客様から感激と満足感を引き出すこと」

 

そしてサービスの本質は2つ

 

①正確性 
②ホスピタリティ 

 

ーーであると小田氏は明快です。

 

① 正確性 (当たり前のことを当たり前に)

 

「いくら気持ちよく泊まっていただいたとしても、お勘定やお釣りが間違っていれば、それだけで気分は台無しになるもの。モーニング・コールの時間を間違えた結果、何億円の商談に響くこともある。アレルギー情報を伝達できなくて人命に関わる場合もある」

 

ではサービスが正確なら「つっけんどん」でもいいのか、そうではない。

 

だから ②ホスピタリティ (お客様の立場にたつ心) が大事であると説かれました。

 

この2つが相まって素晴らしいサービスが生まれ、そこに繁栄がもたらされます。

 

これは旅館やサービス業だけにとどまるものではない。

我々のような製造業にとって「正確性」は死命を決します。

社員の皆さんが日々営業に、図面に、工場での生産に取り組んでくださっている通りです。

寸法精度や納期の正確性が、我々の仕事の核です。

 

そして ②ホスピタリティ。製品さえ良ければそれでいいわけではない。

同じ商品を扱っていて売れる会社と売れない会社の差は、ここに秘密があるはず。

繁盛する店とそうでない店の分かれ道。

ここは機会を改めて再説します。

 

■ 人づくり

 

我々も一泊して感じた通り、加賀屋では社員教育・スタッフ教育が隅々まで徹底しています。

女将リーダー(楠峰子さん)によると、マニュアルを映像化して教育しているそうです。

 

玄関のお出迎え、ひとつひとつの所作、御召換え――。

 

ここでこの所作がなぜ生まれたのか、何がお客様のためになるのか、それを逐一説明します。

むかしは「先輩の背中を見て学べ!」だったのですが、いまは「一つ一つの行動に理由付けが必要」

 

このあたりも業界を越えて共通する現代性です。ひとが自分の納得していないものに心を込めることは、絶対にありません。
教える側の教育も大事です。叱り方、ほめ方、その難しさ。「先輩が弟、妹を育てるように」という境地を目指しています。

 

「うわべだけでほめないこと、目標を超えたときに初めてほめる」と徹底しています。

 

日本一の加賀屋でも、いや加賀屋だからこそ愚直な社員教育が常に行われているのだと得心します。

 

■ 満足した社員がお客様を満足させる

 

かつて人手がなかなか集まらなかった頃、北陸の温泉宿まで来て働く人が少なくて困ったそうです。
そこで加賀屋は「子育てしながら働きたい」という女性のニーズを満たすため8階建ての母子寮を建て、その中に企業内保育園を作りました。
3年前、私は実際にここも見学させてもらいました。立派な建物を直接見て、人手不足解消への覚悟を感じました。

 

かつて最も多い離職理由が「客室まで料理を運ぶのが辛い」というものでした。

それを解決するため最初は数千万円、のちには数億円をかけて厨房から客室まで料理を自動的に搬送するシステムを導入しています。

 

「お客様満足の前に社員満足が欠かせない」

 

満足した社員がお客様を満足させる。経営の原理原則を、ここにも見ます。

 

■ 思いの原点

 

それにしても後発で小さな宿だった加賀屋をここまでの存在にさせた「思いの原点」は何だったのか。

小田氏は昔ばなしを語ってくれました。

テレビ番組(カンブリア宮殿だったか?)でも紹介されていたエピソードです。

 

先代の女将「小田孝(たか)」の話。加賀屋がまだ小さい旅館だったころ、大きな団体をお迎えしました。

まだ大規模な旅館がない時代で、和倉温泉のいくつかの宿に分宿することになりました。

船で到着するお客様を波止場まで、それぞれのお宿がお出迎えです。

 

加賀屋の女将が出迎えたら到着までまだ時間があった。

それで旅館にちょっと戻って横になったら寝入ってしまい、お出迎えに遅れた。

さらに宿にお連れしたら部屋の灰皿に吸殻が一本残っていた。

お客様はカンカンに怒った。

 

「一番小さな宿なのに出迎えは遅刻するし、掃除も行き届いていない。こんな旅館に泊まれるか!」

 

恥ずかしかった。それで奮起した。
「もう一度来るよ、と言ってもらえる一流の旅館になってみせる」と誓った。
それが思いの原点ということでした。

 

■ 部門を越えた「おもてなし」

 

小田相談役が語ったエピソードです。
「あるお客様がお母様の形見の写真と位牌を持って 『お母さん、来たわよ』 と言われるのを私どもの客室係が耳にしました。子細を尋ねると、亡きお母様が加賀屋に来るのを楽しみにしていたけれど果たせなかった。そこで、客室係が調理係に伝えて陰膳(かげぜん)と精進料理一品とを用意してさしあげた。お客様一行は涙、涙で喜んでくださいました。これは客室係だけで出来たわけではありません。調理師がその話を聞いて 『おお、そうか。忙しいけど作ってやるぞ』 となったのです。客室係が気を利かし、それを形にしたわけですね。こういうところが加賀屋でなくてはなりません」

 

加賀屋の提供しているのは予想外価値、つまり「感動」なんだとこのエピソードは示しています。

 

■ 繁盛する理由

 

同じ商品を扱っていて売れる店と売れない店がある。

加賀屋はなぜ売れているのか。

かなり明確になってきました。

 

自分のビジネスの本質(明日への活力注入業)を見極めること、正確性を磨き上げること、お客様の立場でそれを実現すること、顧客満足の前に社員満足があること。

 

さらに「良くなりたい」という思いの原点、そして予想外価値という「感動」を提供していること。

 

どれもが経営の原理原則にかない、王道を歩まれています。

 

女将リーダーの楠さんの言葉です。

 

「1年先を考えるなら花を植えなさい、10年先を考えるなら木を植えなさい、100年先を考えるなら人を育てなさい」

 

企業として人づくりに情熱を燃やしていること、これも経営の根本です。

繁盛している会社が絶対に外していないことをここでも確認します。

 

ひるがえって我々のビジネスの本質とは何でしょうか。
単に「鉄板を切断して販売する」ということだけでしょうか?
その先にあるもっと大きな目的、存在意義はなんでしょうか?

 

それが経営理念で言う「鉄を通じて社会を支える」に通じますし、私たちの大切にしたい価値観にかかわります。

もっともっと掘り下げる必要を感じます。

 

来月もこの話題の続編として、さらに分析していきます。

長文をお読みいただき、ありがとうございました。

 

2020年2月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三