【自分に売る】
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。
コロナのいまこそ、あらためて販売力強化に努めます。営業のセオリーを全社で学びます。
(通算153号)
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
いつも社業への貢献、ありがとうございます。
世の中、コロナによる不況がいよいよ現実味を帯びてきました。
10年ほど前のリーマンショックは「100年に一度」と言われていました。
しかし何のことはない、今回はすでにそれを上回りそうです。
こんな時こそ商売の基本に立ち返るよい機会です。
販売なくして事業なし。あらためて「モノを売る」ことの原点を考えてみます。
■ 自分から買うか?
前回の不況であるリーマンショックに私は心から感謝しています。
売り上げが半減し、経営的にも大きな打撃を受けました。
しかし、だからこそ経営や営業をゼロから本気で学びました。
決定的だったのはアチーブメントの青木仁志社長の教えでした。
その講座に通い続け、教材DVDも毎日繰り返し見ました。
青木社長から教わったセオリーに「営業力の5つのポイント」というものがあります。
(引用:起業家のための社長学=第1部・戦略・理念経営=アチーブメント出版より)
① 自分に売る
② 自分を売る
③ ニーズを売る
④ 商品を売る
⑤ 感動を売る
モノを売るのはこの順番ということです。
実際の商品をお客様に売るのは、なんと4番目です。
一番初めは、その商品自体をまず「自分に」売らなければならない、
自分がその商品に対して「イエス」であること。
もし自分がお客様だったとして、鉄鋼溶断品を坂元鋼材から買うかどうか――。
世代交代が進んで若い社員が増えてきました。
20年ほど前のエピソードを振り返りながら考えてみます。
■ 品質第一の原点
1999年に先代社長が病で急逝し、私が3代目を継いだころのこと。
当時はバブル崩壊後の不景気が一つの極にまで下がり切ったような時代でした。
鉄鋼業界も疲弊し、歴史ある大きな問屋が倒れ始めました。
相場は低迷し、物が動かず「鉄冷え」と言われました。
仕事が蒸発すると、横行したのが「安値合戦」でした。
極端な安値がまかり通り、仕事の奪い合いが始まりました。
そのころの私にとって生涯忘れられないエピソードです。
当時、我が社の売上の2割を占める最大顧客だったA社に対して、
当社と同業のBシヤリングが極端な安値で売り込みました。
Bシヤリングの企業規模は当社よりはるかに大きい。
そして、その売値たるや当社がふだんA社に売っていた価格の6-7割ほどでした。
材料の原価がざっと5-6割とすると、利益はおろか製造経費も出ないような価格設定です。
正気の沙汰ではない。
しかもBシヤリングはそれを自社で製造せず、当社よりも小さな鎔断工場(C製作所)にさらに安値で仕事をさせ、
それをA社に転売していました(C製作所がどんな安値で仕事をしていたかは、想像を絶します)。
当社の上得意さんであるA社はBシヤリングの単価リストを当社にファクスで送ってきました。
私は凍りつきました。
担当者の剣幕は荒い。
「おたくの単価設定はどうなってるんだ」とお怒りでした。
その場しのぎに1割程度の値引きを提示しましたが、とてもBシヤリングの値段では売れません。
降参です。
A社からの仕事は激減しました。夜も眠れないほど不安でした。
ある日、A社のトラックが当社に立ち寄りました。
その荷台にはBシヤリングの品物(C製作所の切った製品)が積んでありました。
いまいましい思いで見ました。
しかし! その切り方ときたら・・・。
切断面は荒く、鋼材の色もドス黒くて質の悪さを露呈していました。
私が他社の熔断品をじっくり見たのは、その時が初めてでした。
そして、当社がふだん切っている製品の質の高さがよくわかりました。
真っ当な鋼材を仕入れて、ベテラン職人が手間ヒマかけて丁寧に切るのが当社でした。
差は歴然でした。
その時、アイトレーサー(型切り)担当だったベテラン職人・橋本さんが、こう言いました。
「社長、大丈夫ですわ。これなら怖(こわ)ありまへん。お客さんはいずれ帰ってきますわ!」
その後、A社はしばらくBシヤリングから買い続けましたが、やがて大半は当社に戻ってきてくれました。
橋本さんの予想どおりでした。うれしかった。
当社を選び直してくださったA社に深く感謝しています。
この経験から私は「品質の大切さ」を学びました。
質でつながるお客さんは絶対に離れない。
後日談ですが、Bシヤリングはそれから十年ほどして廃業しました。
跡地にはマンション2棟が建っています。C製作所もとうの昔にありません。
厳しい話です。
■ 商売の本質とは何か?
どうでしょう、ことし2月に社員旅行で訪れた加賀屋のことを思い出しませんか?
加賀屋の価格設定は高く、決して安売りはしません。
30年以上に渡って「プロが選ぶ旅館・日本一」の座を維持し続けるほどのクオリティで勝負しています。
そして繁栄し続けています。
加賀屋の相談役・小田禎彦氏は仕事の本質を 「お客様が抱えている問題を解決すること」 と明言しています。
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「お客様は皆が安いものをほしがっているわけではない。『自分たちの需要を満たしてくれる本物』をきっと探しておられるはずです。ですから自分たちのターゲット・マーケット(対象購買層)を見つけることが大切です」
「旅館は何を提供するのか。ああ、つかれた。めし、風呂、寝る、ラクしたい、楽しみたい。そんな基本がしっかりと組み上げられていたか、それが売値としっかり見合っていたか」
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お客様の信頼に応える良い仕事をして喜んでいただき、それが「売値としっかり見合って」いること。
これが商売の基本であると、改めて教えられます。
■ クオリティこそが信念
当時のベテラン職人だった橋本さんの口ぐせは 「次に使う人が使いやすいように」 でした。
そして、ひと手間もふた手間もかけて、切断面がきれいで、歪が少ない製品を追求しました。
その品質にこだわる姿勢は、いまも脈々と当社の工場に受け継がれています。
特に橋本さんの薫陶を受けた現・工場長の前君が人一倍厳しい。
「キレイな製品しか出したくないんです」 というのが彼の口ぐせです。
品質と並んで当社のもう一つの強みが、スピードです。
3年前に急逝した小林正和社長(小林鋼業)がほめてくれた言葉が忘れられません。
「坂元さんのところは、『これは無理やろなー』という短納期をお願いしても、
全員が寄ってたかって『なんとか出来ひんか?』と知恵を絞ってくれる。それがうれしい」
いまとなっては宝物のような言葉です。
小林社長は佐々木さんがCADに入ったときもほめてくれました。
「こないだはウチの指示ミスを図面から見抜いて指摘してくれた。間一髪でセーフ。
あの指摘がなかったら納期アウトやった。図面を精密に読める人が入ってくれてよかったね」
事務所を30年以上にわたって守ってくれた糸井さんが定年退職したときに、
M鋼材さんが花束を持ってきてくださったのも忘れられません。
糸井さんの誠実な仕事ぶりを評価してくださったのです。糸井さんも私も感動しました。
切断品質の高さ、もちろん素材の確かさ、CADの優秀さ、
そして短納期を実現する事務所と工場の緊密な連携プレー。
いずれもが溶断工場にとっての「めし、風呂、寝る」です。
その基本をお客様が評価してくださったわけです。
クオリティこそが私たちの信念です。
こうした愚直な仕事ぶりが、私のセールス展開を最大限に後押ししてくれました。
お客様にお売りするときに、極めて強い自信となって支えてくれました。
■ 会社に対する自信
アチーブメントの青木社長は、営業力には次の「4つの自信」が不可欠だと説かれています。(引用:前掲書)
① 会社に対する自信
② 商品に対する自信
③ 職業に対する自信
④ 自分に対する自信
このことでは、逆の残念な例を知っています。
レーザー加工機が看板の当社に対して、いろんなメーカーが
「次の設備投資にはぜひご検討を!」ということで、よく営業に来られます。
当社のレーザーは世界最高峰といわれるドイツ・トルンプ社製です。
あるとき飛び込み営業で来られたのが国内の大手工作機械メーカーのX社でした。彼が言いました。
「御社はトルンプを使っておられますが、ウチもそれなりにいいですから・・・・」
この一言で、彼の話を聞く気が失せました。
X社も日本を代表する世界有数の工作機械メーカーです。
製品もトルンプに負けず劣らず素晴らしい。
なぜ 「それなりに・・・・」 なのでしょうか?
皆さんならどうでしょう? どんな人から買いたいですか?
■ 自分がイエスか?
「会社に対する自信」「商品に対する自信」を私に持たせてくれたのが、
社員の皆さんの毎日の誠実な仕事です。
もし私が顧客なら、絶対に当社の熔断品を買います。
そう断言できることが、仕事の原点です。
肉屋でも同じです、すし屋でも同じです、ラーメン屋でも同じです。まず自分に売ることが原点です。
景気の波は必ずあります。
とくに今回のコロナはリーマンショック以上であることを想定し、長期戦を覚悟しています。
しかし面白いもので、減った需要は必ずどこかで回復します。
世の中はプラス・マイナス、必ずどこかで帳尻が合うもの、バランスするものです。
減った仕事はどこかで出てきます。
それまで耐えれる体力をこの10年間でつけました。
目の前の仕事を誠実にこなし、お客様に選ばれる仕事をし続けること。
「自分に売る」ことが出来るかどうか。
会社が理念に掲げる「信用」とは、お客様との約束を守り続けることでしか得られません。
皆さんの毎日の仕事に感謝します。ありがとうございます。
2020年8月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三
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