ニーズを売る [給料袋メッセージ 155]

【ニーズを売る】

 

きょうは給料日。給料袋のメッセージを書きました。
営業すること、商売に奇策はないのかもしれません。
正々堂々、相手の立場に100%立って正直を貫くこと。
13年前のエピソードを思い出しながら書きました。
(通算155号)

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

いつも社業への貢献、ありがとうございます。
いまは11年ぶりに鉄鋼需要が落ち着いています。

こんな時こそ次の時代を切り開くために学ぶとき。

きょうも先月の続き、商品販売の5段階について話を進めます。

 

① 自分に売る
② 自分を売る
③ ニーズを売る ★
④ 商品を売る
⑤ 感動を売る

 

(引用:青木仁志著「起業家のための社長学=第1部・戦略・理念経営=」 アチーブメント出版)

 

この順番が大事で、実際の商品をお客様に売るのはなんと4番目ということです。

 

1番目は、その商品をまず「自分に」売ること、自分がその商品に「イエス」であること。

 

2番目の「自分を」売るとは、その商品を「誰」が売るか。

ほかならぬ自分自身の人柄を通して売ること。

同じ商品をあつかっていて、売れるセールスマンと売れないセールスマンの差がここにある。

「あの人から買いたい」「あの会社から買いたい」とお客様に思っていただけるかどうか。

 

きょうは3番目の「ニーズを売る」です。

その商品、あるいはその会社の必要性を、お客様にどのように感じていただけるか。

 

■ P生命・Tさんとの出会い

 

わたしが結婚した翌年(2007年)のことでした。
学生時代の友人から「友達の保険屋と会ってくれないか」と電話がありました。

 

うーん、あまり乗り気がしない。
「保険は十分に入っているし、ヘンな保険を売り込まれるかも」と警戒しました。

 

やって来たのがP生命保険のTさんでした。
私と同い年の当時37歳。

 

最初の雑談の中から、私に保険の基礎知識がないことを彼は見抜いたようでした。
そして「保険には3つの種類があります」という生命保険の基本を説明し始めました。

 

3種類とは「終身保険」「定期保険」「養老保険」で、

それぞれを三角形や四角形などの図形に描いて丁寧に説明してくれました。

無知な私にイロハから、まるで授業でした。

 

最初の2回は、その基本だけを私に教えて帰られました。
まず私に保険を見る目を養わせ、

そして私が入っていた保険を私自身の目で確認させました。

すると・・・

 

■ 無知な私の大失敗

 

当時、私が個人で入っていた保険は「××生命」でした。

私が社会人になる直前(1994年)に親が契約し、翌年から自分で保険料を払っていました。

 

その後、私が坂元鋼材に帰ってきて5年目の2003年、

同社のセールスレディの勧めで別の保険に「転換」していました。
その保険を4年ぶりに見ました。

保険を見る力をつけた目で見ると、それは無残なものでした。

 

もともと掛けていた保険は貯蓄性の高い「終身保険」が主体でした。

死ぬまで保障が続くものです。

もし途中で解約しても返戻率(戻ってくるお金の割合)が高い。

 

それをわざわざ別のものに「転換」していました。

そのときの誘い文句は「毎月の保険料が同じでも、大きな保障になる」というものでした。

 

入り直したのが定期保険。死亡保障される「期間」が定まっている(だから定期という)。

しかも「更新型」といって15年ごとに保険料が3倍、さらに2.5倍になる。

 

75歳まで掛け続ければ、払い込んだ保険料の累計は3000万円以上となるが、

75歳以後(期間の終了後)に死んだ場合は保険金がたったの10万円・・・。

 

いったい私は「転換」の時に、どこを見ていたのか!

 

■ 失敗の理由を知る

 

第1の失敗は終身と定期の違いを知らなかったこと。
知らないことすら知らなかったこと。これが致命的でした。

 

第2の失敗は利回り。
もともとの保険は1994年というバブル期の終わりに契約したため、

利回り(予定利率)が3%台と高かった。

それを2000年代の低金利(1%台)のものにわざわざ取り替えていた。

高金利の「お宝」保険をドブに捨てていた。

 

第3の失敗は年齢。
契約時の年齢が上がっていたので保険料が高い。

保険は「若い年齢で入るほど有利」という基本中の基本すら私は知らなかった。

 

経営者でありながら保険について何と無知だったことか。

 

当時の保険会社の事情も知りました。
バブル期に高い利回りで大量に売った保険の「逆ザヤ」に苦しんでいた。

だから過去の高利回りの保険を「転換」させることが販売の目的だった。

そう保険の専門書に書いてありました。

 

■ 無知はコスト

 

××生命の担当者を呼ぶと、あっさりと謝罪しました。
「こんな保険とは知らず、ご迷惑をおかけしました」

 

私は「あなたじゃ駄目だから、責任者を連れて来るように」と要求しました。
そして後日、営業所の上役とともに2人で来た時、

なんと彼女の態度は一変していました。

 

「悪い保険じゃないですよ」
「社長が転換を希望したから転換したんです」

 

そして上役は
「保険は掛け捨てですよ」
「あなたはそもそも長生きすることを前提に話をしてますね」と言いました。

 

確かに「転換後」の保険は早く死んだら「トク」になる。

しかし、保険に求めているものはそんなものではない。

 

早死してしまった場合の備えだけでなく、長生きしても安心できるものに入りたい。

「転換後」の保険は長生きすれば不安だ。

巨額の保険料はパーになり、75歳以後はたった10万円。

なぜ転換の時に気づかなかったのか。

 

都心にある本店の「お客様相談窓口」に行ってクレームを言ったものの、後の祭り。

彼らはもはや、痛くも痒くもない。
自分の無知を心底から悔いました。

 

アチーブメントの青木社長の格言に「無知はコスト」というものがありますが、まさにその通り。
無知の恐ろしさ、無知のダメさ、無知のバカバカしさを嫌と言うほど味わいました。

高い授業料でした。

 

■ まっとうな保険に入り直す

 

当然、××生命は解約してP生命のお世話になりました。

 

Tさんは「ライフプラン」というものをしてくれました。
子供は何人ほしいか。それぞれの子供にどんな教育を受けさせたいか。

私や妻の身に万一のことがあればどうなるか。
細かい聴き取りが数日間続きました。

 

「なんのための保険か」「なぜこの金額か」を明確にし、

自分に合った保険を納得づくで組みました。

 

同時に、会社の保険も見直してもらいました。

このころ社員を対象に入っていたのは10年で満期が来る郵便局の養老保険でした。

 

定年までの長期雇用が前提なので、考えてみれば不便です。

10年ごとに不必要な満期が来る。もし健康を損ねれば、次は入れない。

 

これもTさんの設計により、社員全員を65歳満期の養老保険に掛け直しました。

将来の「退職金原資」として会社が掛けている保険が、これです。

 

■ Tさんの「ニードの喚起」

 

思えば、Tさんの営業は王道でした。
無知な私に保険の基礎をたたき込み、十分に理解できる頭に仕立ててから、

本人が100%納得する商品を提案したわけです。

 

きょうのテーマは「ニーズを売る」ですが、

まさに保険の「必要性」を十分に私に喚起しました。
真っ当な保険会社の「必要性」、誠実な営業マンの「必要性」、

保険を通して人生を真剣に考えることの「必要性」など、

さまざまなニーズを私に気づかせてくれました。

 

いったんニーズに気づいてしまえば、もう私は自動巻きで自分から商品を欲します。

保険のことも進んで勉強し、保険が大好きになりました。

 

人生も経営もリスクの塊です。それに的確に対処し、安心を得たい。

将来の資産もキチンと築きたい。社員の福利厚生など経営にも活用したい。

「3種類」の保険(すなわち終身・定期・養老)を組み合わせながら、

たくさんの保険に入りました。

 

思えばTさんを紹介されたときに

「保険は十分に入っているし、ヘンな保険を売り込まれるかも」と

警戒(!)などしてしまった過去の私は、「ド」がつくくらいのアホでした。

 

■ 保険セールスから学ぶこと

 

Tさんのセールスから学べることは、たくさんあります。
保険と鋼材、商品はまったく違いますが、我々の商売に生かせることがあるはずです。

なんでしょうか?

 

少しだけ挙げてみます。

 

・ 自分の商品はお客様にとって必ず役に立つと心底から思っていること。
・ お客様の立場に100%立っていること。
・ お客様が気付いていない問題点まで把握していること。
・ お客様は支払った代金以上の「価値」を感じていること。
・ 相手に「与える」ことに徹していること。

 

一方で、××生命の2人の営業パーソンから学ぶことも皮肉でなしにたくさんあります。

あまり気持ちのいいものでないので止めておきますが、この一言に尽きるかもしれません。

 

「奪うセールス」――ではないでしょうか。
反面教師とせねばなりません。

 

この一連のことから、私はP生命とTさんのファンになりました。
一度ファンになってしまうと簡単には離れない。

 

そんな顧客が多ければ多いほど、経営は安定します。

私たちも、そうならねばならない。

 

Tさんの姿勢から学びたいものです。

それは「プロの在り方」であり、お客様に与え尽くす姿勢です。

 

我々はそれを鋼材業で実現してまいりましょう。

 

2020年10月23日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三