刃(やいば)を研ぐ時間 [給料袋メッセージ 104]

【刃(やいば)を研ぐ時間】

 

きょうは25日。給料袋メッセージを書きました。「人本経営ベンチマークツアー」で今月訪れた徳島の素晴らしい会社様のことから書きました。
(通算104号)

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

「日本で一番大切にしたい会社」という賞があります。社員とその家族、取引先などの幸せの実現を目指す企業を表彰するものです。その「大賞」を受賞した「西精工株式会社」(徳島市)を見学してきました。

 

「社員とその家族を幸せに」と言っても決してお題目だけでは済みません。まずは高収益体質の企業になること。同社は創業1923年と古く、今年で94年目。ねじ(ナット)が主力製品です。その長い歴史を支えたのが独自の技術力です。四国という土地柄、本州と陸路でつながっていなかった時代は輸送面で不利でした。だから重量の張らない小さな製品に特化し、ナノテク技術に磨きをかけました。「他社には作れないモノ」「作れたとしても品質はダントツ」をポリシーに、選ばれる会社であり続けようとしました。その結果の高収益、それが社員を幸せにするための大前提(原資)になりました。

 

現在の西泰宏社長が入社したのは二十年ほど前。しかし、そのころは社員があいさつをしなかったり、ゴミが落ちていたり、雰囲気が暗かったそうです。会社を良くしようと模索し続けた西社長。やがて力を入れたのが「なんのために仕事をするのか」を徹底的に突き詰めた理念づくり。そして朝礼でした。

 

この日、私たちが見学に訪れたのが早朝7時。朝礼を見学するためです。同社の朝礼は、いまでは毎朝なんと1時間近く行います。20人くらいのグループに分けて、全社員250人が経営理念、ビジョン、方針などを唱和。そして一人一人の理念スピーチが続きます。これを毎朝するものですから、会社の大切にしたい考えがだんだんと腑に落ちてゆきます。

 

西社長はこの朝礼のことを「刃(やいば)を研ぐ時間」と表現しました。これは、同社の社員教育のテキストになっている「七つの習慣」に出てくる有名な「きこりの話」に由来します。

 

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森の中で木を倒そうと、一生懸命ノコギリをひいているきこりに出会ったとしよう。
「何をしているんですか」とあなたは聞きました。
すると「見れば分かるだろう」と、無愛想な返事が返ってきます。
「この木を倒そうとしているんだ」
「すごく疲れているようですが・・・。いつからやっているんですか」と、あなたは大声で尋ねます。
「かれこれもう五時間だ。くたくたさ。大変な作業だよ」
「それじゃ、少し休んで、ついでにそのノコギリの刃を研いだらどうですか。そうすれば仕事がもっと早く片付くと思いますけど」と、あなたはアドバイスします。
「刃を研いでいる暇なんてないさ。切るだけで精一杯だ」
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面白い話です。刃を研ぐこといかに効果的か。つまり「自分磨き」が仕事をする上でどれほど大切か、よく分かる話です。このきこりのような不細工なことを、私たちは普段ついやりがちです。

 

奴隷解放の父・リンカーンも次のように言ったそうです。
「木を切り倒すのに六時間もらえるなら、私は最初の四時間を、斧(おの)を研ぐことに費やしたい」

 

西精工さんの毎朝1時間近くに及ぶ朝礼は、まさに刃を研ぐ時間になっていました。だからこそ一人一人が仕事の意義を理解し、主体的に、喜んで仕事に向かっているのでしょう。その結果の高収益です。

 

さて、その朝礼見学の後は西社長の講話でした。余りに熱いお話で、予定時間を大幅に超過するほど。その後は社員さん3人(男性2人、女性1人)がパネラーとして前に立ち、私たち見学者の質問に答える「クロストーク」でした。私たち見学者も負けじと熱心ですので、質問は矢継ぎ早です。しかし次の予定が迫っていることから、質問タイムは短く打ち切られました。

 

その直後のことです。会が終わってパソコンをカバンにしまっていた私の机に、パネラーだった女性社員さんが来てくれました。「何かご質問があったのではないですか?」。質問が打ち切られたときに、どうも私が残念そうな顔をしたのを、彼女は見逃さなかったのでした。そして、わざわざ席まで来てくれたのです。私の質問は、同社が進める障がい者雇用に関することでした。それを告げると、隣にいた男性社員さんが丁寧に答えてくださいました。

 

この女性社員の気配り、すごいことだと思います。その観察の鋭さ、機転の利くこと、思いやり、そして主体性。なかなか出来ることではありません。まさに毎朝刃を研いでいるからこそ、こうして瞬発的にお客様の見えない望みを察知し、叶えることができるのでしょう。この小さな配慮。本当に心が洗われるようでしたし、一瞬で同社のファンになってしまいました。

 

私たちもこの社員さんのように、ひとの願望を叶える働き方をしたいものです。相手の予想を上回る感動を与える働き方。それは自らを磨き続ければ可能であることを教えられました。本当にいいものを見せてもらいました。西社長、社員の皆さん、ありがとうございました。私たちも自分を、会社を、磨いてゆきましょう。

 

今月もお読みいただき、ありがとうございました。

 

2017年5月25日               
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三