【社長は人を見る目がない】
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。
採用に失敗し続けた過去から、採用へのこだわりが生まれました。
(通算137号)
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
いつも社業への貢献、ありがとうございます。梅雨がようやく明けて酷暑の季節になりました。現場のきつい季節がまた巡ってきました。皆さんのおかげで会社が順調に回っています。ありがとうございます。
さて、昨年7月にA君の本採用を見送ってから1年がたちます。それからは主に中途採用で募集していますが、空前の人手不足と採用難に直面して新人が見つかっていません。高校新卒、大学新卒にも選択肢を広げて採用に力を尽くしています。
それでも、これまでに何人かの応募者に会いました。しかし結果は見送りばかり。面接のメイン担当は 3人(私、B君、C君)。毎回毎回が真剣勝負、面接を終えた後も白熱した議論です。これほどの人手不足にもかかわらず応募を頂けたことは大変ありがたいのですが、慎重な選考姿勢を崩していないため採用には至っていません。
■ 採用に失敗し続けた過去
振り返れば20年前に私が3代目社長になってから、採用では数々の失敗を重ねました。応募が振るわず、面接に来た人をほとんどそのまま採用していた時代がありました。正直なところ面接の仕方が分からなかった。理念もなければ基準も定見も一切なかったためです。お粗末な状況でした。
すると問題が起きます。仕事をする以前に、遅刻や欠勤など職務規律が守れない。経歴詐称や器物破損、暴言や暴力まで起こりました。当然、まじめに働いている他の社員から不満が噴出します。すると今度は辞めてもらう、いや辞めさせるのに苦労します。
そこまでの問題行動ではなくても、私が甘いばかりに仕事での成果が出ないこともありました。すると、いつまでたっても他の社員の基準には達しません。結局は離職。お互いに不幸なことです。
人間関係の折り合いが悪いための離職もありました。私の会社づくり(人材育成)が根本的に間違っていたのが原因です。
基準が不明確なまま採用、問題行動(あるいは成長不足、人間関係の不全)、そして離職。そんな負の連鎖が続きました。私は経営者になってから人をたくさん辞めさせています。人を不幸にする経営者でした。
■ 面接力を鍛える
やがて社内からこんな声が聞こえてきました。
「社長は人を見る目がない」――。
まさにその通り、ぐうの音も出ませんでした。
人を見る目とは何でしょうか?
どんな人を仲間に迎えるのが正解でしょうか?
ちょうどその頃、大赤字を受けた社内改革が始まりました。朝礼、月例学習会、社内会議を重ね、そして「私たちの求める理想の社員像」というテーマで何度も話し合いました。
面接体制も強化し、それまでは社長の私一人で行っていたのを改めました。社員2人が必ず同席します。私には見えないことが、彼らには見えるのです。そして面接は2回以上、場合によっては3回、4回。面接担当者は社外の面接官セミナーなどでトレーニングも積み、書籍でも学びました。
そのように面接体制を一新してから採用した社員は誰一人辞めることなく定着し、そして成長してくれました。D君、E君、Fさん、Gさん、Hさん、Iさんという若手メンバーです。彼らの存在がこの数年間の好業績を下支えしています。
■ 人に恵まれている私
この面接の緻密さを見て古参メンバーが冗談めかして言いました。
「いまの選考基準なら自分は合格していなかった」――。
それは違います。私に理念も定見もスキルもなかった泥沼時代に入ってくれた古参社員、すなわちB君、J君、C君はいまや堂々たる幹部であり、会社の将来を担う逸材です。いろんな面が不備だった中、自ら求めて成長しました。「育つ人は勝手に育つ」という言葉を思い出します。
幸運も加わりました。廃業した同業他社からKさん、Lさんというプロフェッショナルな人財が移籍してくれました。
私はどうも、人に困ったときに幸運に恵まれるという星のもとに生まれているようです。
思えば20年前に父(先代社長)が他界したときも、直後にプロ職人のMさんが入社して急場を助けてくれました。勤めておられた同業他社が廃業したためです。そのMさんがB君を紹介してくれています。縁としか言えません。
いま採用が振るわずにいても社業が順調に回っているのは、優秀な社員たちが一騎当千の働きをしてくれるからです。そしてベテランのNさんは「新人が見つかるまで頑張る」と、定年を超えても来てくれています。ありがたいことです。
■ 少数になると精鋭化せざるを得ない
これだけの人手不足と採用難の時代を迎え、私が弱気になることもあります。数年後の工場新設計画もあるので「出来れば多めに採用したい」と提案します。しかし現場(とくにB君)は私の意見に反対です。「人数がダブつくと一人一人の働きが鈍くなる」と、決して過剰人員を認めません。
これはすごい発想です。普通は逆です。古典的な意味での労働者目線なら、人数が多い方が「楽できる」と考えるのが自然でしょう。B君からは私の方が教えられることが本当に多い。その働く姿勢の 鋭さに驚くばかりです。B君を紹介してくれたMさんのプロ意識が脈々と受け継がれています。
おかげで少数精鋭の理想的な職場になっています。経営数値が軒並み良好なのも、少ない人数で業績を上げているからです。
「一人当たり」の指標はどれも抜群です。
「一人当たり経常利益」は業界の優良企業平均(年間200万円)の2倍超。
「一人当たり法人税」は国内の優良企業平均(20-30万円)に比べて当社は120万円です。どれほど国家財政に貢献しているか。
そして会社の自己資本額はもうすぐ3億円、社員一人当たりで2000万円超です。社員数を増やさないからこそ強い財務体質が実現します。我々のビジョンである「小さな一流企業」に着実に向かっています。
一人でいろんな業務をこなすモデル社員像を追求した結果、有給休暇の取得もどんどん進みました。残業も極めて少ない。来年からは完全週休2日が実現します。昔を振り返ると、別の会社です。
当たり前が当たり前でなかった時代がありました。会社を良くし続けてくれている社員の皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。そして、せっかくご縁がありながら辞めさせてしまった社員にも、申し訳なく思います。
■ 全員が面接官
高校や大学からの見学者、そして中途採用の応募者を迎えると、必ず事務所と工場をご案内します。社員の皆さんの目に多く触れてもらうのも狙いの一つです。
あるときNさんがぽつりと言いました。
「きょう集団で見学に来た子なら、右端にいたあの子がいいね。遠くから目礼すると、あの子だけがキチンと会釈を返してきた」
なるほど、です。些細なことですが貴重な情報です。小さな目礼が出来ることは、大きな仕事が出来るようになる出発点です。こうした「全社員が面接官」としての意識を持ってくれていること、ありがたいことです。
■ 「人は自分の言葉に従う」
一緒に働きたい社員像、理想の社員像。何度も何度も話合い、そして何度もアンケートを取りました。最近の朝礼で出た皆さんからの意見です。
・ 素直に頑張る子、素直にハイと言える子、そして返事だけやない子。
・ 自分が好きな人、自分に自信がある人。
・ 手すきの時に「何かやることありますか?」と聞いてくれるような自発性のある子。
・ ミスをしたときに言い訳でなく、まず報告できる子。一人で抱え込まない、困ったらヘルプを出せる人。
・ 真面目で、要領がよくて、ノリのいい子。
・ ウソをつかない子、正直な人、誠実、ひとがら、雰囲気、第一印象も大事、裏表のない人。
「人は自分の言葉に従う」と言います。人に求める以上、自分もそうしよう。その意識がまた会社を良くしてくれています。
■ 人生は出会いで決まる
どんな人と働きたいか、どんな人に来てもらいたいか。
それは「信頼」「成長」「貢献」という理念を大切にしてくれる子です。「小さな一流企業を作る」という会社のビジョンに共鳴してくれる子です。
そして明るい挨拶、打てば響くような返事が出来ること。さらに感謝の心、人を喜ばせようという相手中心の気持ちがあれば、もうそれ以上に何を求めるでしょうか。
これから出会える人財の卵に期待し、いま会社を支えてくれている社員の皆さんに感謝します。
2019年7月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三
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