朝ドラから事業承継を考える [通算 188号]

【朝ドラから事業承継を考える】

きょうは給料袋のメッセージを書きました。

いま放映中のNHK朝ドラ「舞い上がれ」を見ての感想、

そして当社の次の事業承継について考えました。

[通算:188号]

 

 

 

 

 

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

いま放送中のNHK朝ドラ「舞い上がれ」を見ていますか?
東大阪の町工場が舞台です。

ドラマで描かれている境遇が当社ととても良く似ており、

驚くばかりです。

 

■ 現役社長の急逝

 

舞台は東大阪のネジ工場、当社と同じようないわゆる町工場です。

俳優・高橋克典の扮する2代目社長が工場を継ぎ、

苦しい経営を立て直そうと奔走します。

長年の努力が実って工場を拡張。

そこへリーマンショックによる不況が重なります。

 

懸命な営業、銀行から迫られる返済、苦渋のリストラ。

心労と過労の果てに社長が倒れ、そのまま帰らぬ人に。

 

女優・永作博美の扮する奥さんが急場をしのいで新社長に就任します。

信用金庫から融資の返済を迫られます。

会社の売却も検討しますが、存続を選択します。

そこへパイロット志望だった長女(主人公の舞ちゃん)が社業に加わります。

苦心の末に合格した航空会社の内定を辞退し、家業の立て直しに尽くします。
 

 

■ 個人の夢と家業と
 

 

このドラマを見ていて、途中から「あれ?」と思いました。

そうです、私自身の人生背景とかなり重なるのです。

私は町工場(坂元鋼材)の3代目として生を受けながらも、

高校時代から新聞記者を夢見ていました。

そして記者になって大阪を離れていました。

 

 

1998年、バブル崩壊後の厳しい経営を続けていた先代社長(私の父)に

すい臓がんが発覚します。

「5年生存率10%」と知り、私は帰阪。翌年に父は他界(享年62)。
そこから私の3代目としての悪戦苦闘が始まります。

時系列はやや異なるものの、

このドラマはまるで自分の過去を見ているようです。

 

■ もし私が急死したら・・・

 

そして、私がこの数年来ずっと考え続けているテーマについても、

このドラマは描いています。

そうです「もし私が事故や病気で急死した場合、会社はどうなるか?」

という問いです。

 

当社は全員で15人の小さな会社です。

社長でありオーナーでもある私が突然他界したら、会社はどうなるか?

 

どんな事態に陥っても永続する企業を作る。

そのために様々な施策を打ち、準備を重ねています。

営業基盤の強化、製造組織の拡充、

支配体制の整備(持ち株会社)、そして人材育成。

しかしまだまだ道半ばです。

 

高橋克典扮する社長が職場で倒れたシーンを見て、

自分の姿を想像しました。

そのとき果たして妻が社長を継ぐだろうか。

社員たちはどうなるだろうか。

他人ごとではありません。

 

■ ドラマが描く町工場のリアル

 

突然不在になった現役社長の後を受けて、

奥様が信用金庫の担当者と交渉します。

経営者は会社の借入金を個人保証しています。

万一、返済できなければ自己破産。

奥様は個人補償のハンコを押す手が震えます。

中小企業経営者は会社に人生を賭けているのです。

 

私自身が29歳の時に同じ体験をしています。

父の葬儀が終わるや否や、

当時のメイン銀行さんは私の実印をもらいに来ました。

中小企業経営は体を張って行うものだと覚悟しました。

 

営業の苦労も描かれています。

朝ドラではリーマンショック直後が背景、私はバブル崩壊後。

時代は違えども不況期の苦労は同じです。

仕事が激減、頭を下げて仕事がもらえるものではない。

 

さらにドラマと共通するのが素人の悲哀です。

営業に奔走する主人公の舞ちゃんはパイロット志望からネジ工場への転身、

私は新聞記者から鋼材会社へ。まさに畑違い。

お客さんから「素人」と軽くあしらわれます。

その悔しさをバネに専門知識を必死で学んだのは、

主人公も私も同じです。

 

やがて舞ちゃんの必死の営業努力が実を結びます。

本人の努力もさることながら、同社の品質が良かったこと、

それを支える優秀な社員がいたことが成功の前提でした。

ドラマと当社の共通点です。

 

■ 夢をあきらめて家業に入った主人公

 

舞ちゃんはパイロット志望。

狭き門をくぐり、厳しい訓練を耐え、

そして航空会社の内定にこぎつけます。

しかし結局は家業に入ることを選択しています。

 

パイロット断念を

「後悔するかも。でも工場をしなくても後悔する」と語ります。

人生の岐路にあたってのためらい。

しかし決断の切り札はやっぱり父親の存在でした。

 

パイロットになることを最大限に応援してくれた父。

苦労を重ねながらも家族と社員を守り通した父。

主人公の願望のど真ん中に父親の姿がいつまでもいたに違いありません。

 

私も同じでした。

高校のころからあこがれた新聞記者。

天職と思い込んで大阪を飛び出しました。

しかし父親の病を知って、やはり大阪に帰りました。

 

いま振り返ると職業は手段、目的は自分も周りも幸せになること。

大阪に帰ってきた28歳の自分自身の選択を、

53歳になったいま誇れます。

あの時に帰ってこなければ一生後悔したに違いありません。

 

ドラマの話。

営業でついに大きな成果を挙げた日、

主人公の舞ちゃんは仏前でこのようにつぶやきます。

それは、23年間ずっと私が抱いてきた思いと完全に重なります。

 

「もっと、お父ちゃんとネジの話したい。

教えてほしいこともいっぱいある。

見てほしいことも、聞いてほしいことも増えてくばっかりや。

けどな、なんやお父ちゃんに助けてもろた気がするねん」

 

■ 経営者と運転免許

 

ドラマを見て思い浮かぶのが、

よく私がたとえる「大型バスと運転手」の話です。

私は30代の10年間、我流経営でした。

40歳を過ぎてようやく経営を学び始めます。

経営の何たるかを余りにも知らなさ過ぎたことを知り、ゾッとしました。

まるで無免許運転で大型バスを運転していたようなもの。

たとえると会社は大型バスです。

乗せているのは社員とその家族で50人以上。

運転手は父親だったけれども、

その急逝によって「長男だから」というだけの理由で

素人の私が経営者になりました。まさに無免許運転。

車の運転の仕方も知らなければ、どこに行くかもわからない。

運転技術が経営技能であり、行先が理念とビジョンです。

我流経営の10年間、よく無事故で済んだものでした。

いや大事故すれすれでした。

朝ドラでは先代社長の急死から3年ほどが経って、

新社長(奥様)と長女の奮闘で営業に成功し、

ひとまずの資金繰りを乗り切ったところまでが放映されました。

この先が楽しみです。

 

先代の思いをつなぎ、社員の力を引き出し、顧客の願望をかなえ、

そして社会の要請にどのように応えていくのか。

 

これから奥様と長女が経営者としてどのような道を歩むのか。

視聴者としても同じ境遇の経営者としても興味津々です。

 

■ 次の事業承継は準備万端で

 

ドラマではないですが、

当社の先代から私への事業承継は薄氷を踏むような危ういものでした。

しかし、次はそうあってはならない。

だから綿密にシナリオを書いて次の事業承継を準備します。

どんな事態があっても大丈夫なように、万全の筋書きを立て、その通りに実行します。

私はいま53歳。

しかしオーナー経営者一家としては、後継候補の子供があまりにも小さい。

バトンを渡すのに20年はかかる。

子供が経営者を継がない選択もありうる。

それでも、どんな事態でもこのバスを運転させ続けます。

そのためにも幹部育成、社員教育にもっともっと力を入れてまいります。

波乱万丈はドラマの世界だけで十分。

私たちの次の事業承継は準備万端でなければなりません。

朝ドラを見てそう決意を新たにしています。

今月も社業への貢献、ありがとうございました。

2023年1月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三

 

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