【縦軸の成長、横軸の貢献】
きょうは25日、給料袋のメッセージを書きました。
最近のこと。とある経営の勉強会で「この7年以上、離職ゼロ」と話したところ、「その秘訣は?」と問われました。
不肖この私がイライラしたり怒鳴ったりしなくなったのは大きい。2番目の理由を考えてみたら、やはりこれでした。
(通算164号)
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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ
いつも社業への貢献、ありがとうございます。
今月は社内で個人面談が続いています。目標に向かって成長しているか、課題はなにか、5年後や10年後にどうなっていたいか?
普段じっくりは聞けない話をシェアしてもらうのも、ねらいの一つです。
■ 「1人当たり」という最重要の物差し
当社の目標は「小さな超一流100年企業」です。
それを実現するカギの一つが「適正人数」を守ること、社員数をいたずらに増やしすぎないことです。
PL(単年度の損益)の話では、「社員1人当たりの利益」を最大化させること。
大きなパイを少人数で分けると、当たり前ですが1人分が多い。
期末の決算賞与が増えます。給与改定にも余裕が生まれます。
BS(中長期の財務)の話では、「社員1人当たりの自己資本」を増やし続けること。
自己資本とは「返さなくてよい自分のお金」。これが分厚いほど経営は安定します。
社員数が多いほど固定費が増えますから、返さなくてよい自分のお金も相応に積んでおかねばなりません。
もし社員1人当たり自己資本が1000万円あれば、
不況や災害など不測の事態で仮に売り上げゼロになっても、理論上2年間は社員に給料を払える。
その間に会社を立て直せる。
これを最も大事な目標数値として経営してきました。
いま社員1人当たり2000万円です。これをさらに高め続けるのが目標です。
コロナ禍のような不測の事態でもビクともしない会社にするのが目的です。
社員数を増やせば(分母を大きくすれば)これらの数値はすぐに落ちます。
「1人当たり」を充実させることが中小企業の良さです。
規模でなく個々の充実で超一流の水準をめざします。
■ 個人の成長
少人数で会社を回すには一人ひとりの成長が不可欠です。
一人何役もこなせる少数精鋭の集団にすること。社員面談の目的も、これです。
成長のお手本が工場長のA君です。
レーザー・プラズマ・ガスという工場設備をすべてマスターし、
さらには事務所でのCAD・CAM、値段計算もします。
まさにオールラウンダー。
いまアメリカで活躍する二刀流の大谷翔平選手もかくや、と思わせる活躍です。
打って良し、投げて良し。そんな選手ばかりのチームだったら、強い会社になるに決まっています。
事務所ではB君がその領域に近づきつつあります。
CAD・CAMの重鎮でしたが営業事務に回り、いまは経理を勉強中です。ゆくゆくは事務所の大黒柱です。
それが可能になったのは、重要ポジションであるCAMをCさんがB君から習得して引き継いでくれたからです。
その過程でB君にも育成力がつきました。
工場でプラズマとガスを極めたD君が営業を学んでいるのも、理想的な業務横断です。
一人ひとりが仕事の幅を広げるにつれて、誰もがいつでも休める「しなやかな組織」になりました。
かつては「この人はこの仕事だけ」「この仕事はこの人だけ」と限定されていた時代がありました。
スペシャリスト(専門家)といえば確かにそうです。しかし組織としての強さやしなやかさは欠いていました。
そうではなく得意分野を2つも3つも持つ社員の集合体が、いまの当社です。
■ 仲間への貢献
人に教えることは簡単ではありません。せっかく自分が身に着けた知識や技術です。
惜しみなく与える心を持てるかどうか、貢献の心があるかどうか。
もし人間関係に問題があればスムーズな移譲は果たせない。だから職場の水質を良くすることにも努めました。
このような教え合いを始めてから7年ほどになります。結果、教えることにたけた社員が増えました。
経理業務では、先に学んだEさんがいまB君に手ほどきしています。
人にものを教えると自分が鍛えられます。150%分かっていなければ100%は伝えれないもの。
教えることでEさんも学んだ知識が整理され、より理解が進んでいるはずです。
この数年の教え合いの光景を見ていて、次のような方程式が思い浮かびました。いかがでしょうか?
個人の能力(成長) × チームワーク(貢献) × 外部環境 = 組織の成果(業績)
コロナ禍、リーマンショック、天変地異のような外部環境は私たちのコントロール外にある。
しかし成長と貢献はコントロールできる。
そこを上げていくことで、外部環境の影響を最小化できる。
この方程式の積で会社の業績を上げていく。
■ 教え合いの副産物
教え合い、学び合いが進んだ結果、社風が間違いなく良くなりました。
社風が良いから教え合うのか、教え合うから社風が良くなるのか。いずれにしても嬉しいことです。
さまざまな仕事を横断したA君は「人の仕事が分かると、人の気持ちがわかるようになる」と言っています。
まさに至言です。
業務の幅を広げると同時に、心の幅をも広げてもらいました。
この7年半にわたって離職が実質ゼロなのは、このことも大きいはずです。
離職は定年退職のFさん、Gさん、Hさんのみ。
試用期間を超えた新入社員は全員が定着してくれています。ありがたいことです。
離職の最大の損失とは何でしょうか。
それは、経験が積みあがらないことです。せっかく教えたこと(学んだこと)が社内に残らない。
結果的に組織が成長しない。だから、この7年半はとても効果的な経営になりました。
■ 成長という縦軸、貢献という横軸
アチーブメントの青木仁志先生から教えられたものに「成長と貢献」の図があります。
縦軸の成長、横軸の貢献。その右斜め45度上に成功がある。
自分の能力を高めて縦軸を伸ばせば、その伸ばした分だけ貢献できる領域(横軸)を伸ばすことができる。
当社の経営理念にある「成長」と「貢献」は、この考え方から頂いています。
「目標を立て、学び、実践して達成した。
その後に真の成功者とそうでない人に分かれます。
その差は、自分が得たものを分かち合っているかどうかです。
技術も知識も、人と分かち合うことによって磨かれ、洗練され、普遍の技術として使いこなせるようになっていくものです」
(引用:青木仁志・超一流の書く習慣 アチーブメント出版)
■ 現状維持は後退
この縦軸の成長と横軸の貢献は、どこまで伸ばせばいいのでしょうか。
ここまで行ったら終わり、という地点はあるでしょうか。
人間は楽に流されやすいもの。
そこそこの成長を手にすれば、そこで安住してしまうかもしれません。
もし目標が低ければ問題は起きないのかも知れない。
ただし「やりがい」を生むかどうか。真の「自信」がはぐくめるかどうか。
「現状維持は後退の始まりである」
これは、ウォルト・ディズニーの名言とされています。
松下幸之助や多くの偉人が、同じような言葉を残しています。
恐ろしい警句と受け取らねばなりません。
誰もが、いつかはこの会社を去るときが来ます。
「坂元鋼材を選んでよかった。
小さくて無名の会社だけれど、社長を信じて入社してよかった。
充実の会社人生だった。
大きく成長でき、そして世の中に貢献できた。満足な職業人人生だった」
そう思ってもらうことを目的に私は会社経営をしています。
■ 苦労とやりがいはセット、やりがいだけはない
「やがて会社の前に僕の銅像が立つ」というのはA工場長の決まり文句ですが、
彼の自己概念はなぜここまで高いのでしょうか?
それはおそらく実績に対する自信があるからです。
「何のために仕事をするのか?」というのは誰にとっても大きな問いです。
何のためでしょうか?
生活のためという最初の目的は誰にとってもあります。
しかし、その先には「真の自信」を身に着けるため、というさらに大きな答があるような気がします。
「苦労とやりがいはセット、やりがいだけはない」
(木村勝男の名言)
もっと大きな苦労をし、もっと大きな成長をし、もっと大きな貢献を残してこの世を去りたい。
私もいま人生の折り返しを過ぎて、そう念じています。
2021年6月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三