活きたお金の使い方 [給料袋メッセージ96]

【活きたお金の使い方】

 

きょうは25日。給料袋のメッセージを書きました。
4年半前、先代社長のころから久しく無かった社員旅行を復活させました。それは同友会で身近だった先輩社長から「活きたお金の使い方」として教えられたのがきっかけでした。そんな、私と社員旅行のなれそめについて書いてみました。

(通算96号)

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

いつも社業への貢献、ありがとうございます。今月は創業以来おそらく初めてとなる「2泊3日」の社員旅行で東北の岩手県、宮城県を訪れました。平日の金曜日を休みにしたためにお客さまにはご迷惑をおかけしましたが、社員全員で東北の地を踏むという貴重な経験が出来ました。

社員旅行を始めて6回目。2泊3日で遠方に出かける初の試みでした。韓国、台湾、中国なども候補になりましたが、今年で5年目となる大震災の現場から学ぼうということで、東北を支持する声が圧倒的に多かった。そして、やはりたいへん充実した旅行になりました。報道を通して知るのとはまた異なり、実際に自分の目で見た現地。地震や津波の恐怖を身近なものとして実感しました。また、全国的にも著名な八木澤商店の河野社長、高田自動車学校の田村社長という大震災の困難を乗り越えられてきた二人の経営者からじかに聴くお話。これらはたいへん貴重な経験でした。お二人の語る大震災・大津波の現実、社会のさまざまな矛盾、そして経営者としての哲学。社員全員でお伺いしたことは会社の歴史に残る全社体験になりました。同友会のご縁だけで会って頂き、貴重なお時間を割いてもらいました。本当に有難いことでした。お世話になった岩手県中小企業家同友会の皆様にあらためて感謝します。

 

実は私が社員旅行を始めたのも、その同友会が発端です。リーマンショック後に大赤字を出してしまい、経営を学ぼうと入った同友会。そこでさまざまな経営者に出会いました。1年、2年と学び続けているうちに、上手くいっている先輩経営者に共通していることに気づきました。それは社員との関係性をとても大事にしていることです。社内イベントの充実、とりわけ社員旅行に力を入れている何人もの経営者に出会いました。

 

ある社長は「社員旅行は年に2回行く。1回は国内、もう1回は海外」と言いました。そして海外に行く場合は「その土地の最高級のホテルに泊まる。そして同時にその地で最も貧しい地域にも行く」。その心は、まず最高のおもてなしを体験することで社員の思考を拡張すること。たとえてみれば松阪牛の美味しさは食べた者でないと分からない。最高とはどういうものかを皆で体験するのが目的です。そして貧困地区の現実を知ることで、その格差の大きさを体感する。同時に、日本がいかに恵まれているかを感じるのも狙いの一つ。まさに生きた社員教育。そして「費用は全部会社が持つ。関空までの電車代も会社持ち」と、お金の使い方も徹底していました。

また別の社長は社員旅行でハワイに行ったときビール掛けをやりました。社員が「どうしてもやりたい」。すると社長は「やれ!」。ホテルの室内でビール掛けに興じました。あとでカーペットなどの洗濯代として60万円の請求書が来たそうです。それでもその社長は「60万円でいい経験が買えるなら安いもの」と涼しい顔です。そしてラスベガスに行ったときは一人2万円をポケットマネーで配り「ここがどこか分かっているな。これでお土産なんか買うたらアカン」と、すべて賭けさせたそうです。

 

どちらの社長も、社員に喜んでもらうこと、いい経験をしてもらうことにキッチリと時間とお金を使っています。そして見ていると、実はその社長たちが一番喜んでいるのではないかとすら思えてきます。ひるがえって私はどうだろうか。「社員を喜ばす」という発想が、そもそもあっただろうか。反省しかありません。私も社員旅行をやってみようと思いました。我が社は昭和の昔、父が社長の時代に何度か行っていたようですが、久しく途絶えていました。私が3代目を継いでからは、もちろんありません。そして2012年3月、伊勢志摩への社員旅行に初めて出かけました。

 

それから数カ月しての同友会の会合でした。ある初対面の経営者に私は、社員旅行を復活させたことを嬉しげに話しました。するとその社長は私にこう聞きました。「ところで、社員さん方はお土産をいっぱい買っておられましたか」。そういえば、あまり多くの土産物を買ってはなかったように思えました。「そうでしょ。私はポケットマネーで一人ずつにお土産代を配ることにしています。経営者は交際費や会議費で飲食することもあるでしょ。それを自分で払ったと思えば、それくらいはすぐに貯まるはず」と言われました。私は頭を打たれた思いでした。ここまで真剣に社員の立場になって考えていたか。自己満足の世界からまったく抜け出ていない自分を発見しました。

 

いろんな先輩経営者の話を聞き、反省し、その都度の実践を繰り返しています。何が正しいのか、いつもいつも悩みながら経営しています。

その翌年は松江に。3年目は飛騨高山へ。このときから全員そろっての旅行となりました。そして城崎、淡路島と続き、今回初めて2泊3日の東北となった次第です。毎年度欠かさず、6回も続きました。でも、皆さんには本当に喜んでもらえているでしょうか、それだけが気がかりです。

 

ただ、明け方まで寝ずにゲームやおしゃべりに興じている若手社員たちのようす、皆そろっての遠出でゆっくりとされているベテランさんたちのお顔を見ると、多少は成功しているかな、と思ってもよいでしょうか。一緒に飯を食い、一緒に寝泊りすること。毎日出社して顔を合わせていても、そこは多忙な日常。仕事以外の会話をゆっくりと交わすことは意外と少ないものです。団体行動で多少は窮屈でしょうが、年に1回のこの催し、これからも続けていきます。

来年からも、よろしくお付き合いください。

 

2016年11月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三