思いの原点 その② = クオリティへのこだわり [給料袋メッセージ108]

【思いの原点】その② = クオリティへのこだわり

 

きょうは25日。月給袋のメッセージを書きました。
17年ほど前に起こった「安値競争」事件のこと、その経験から培われた品質へのこだわりのことを書きました。
(通算108号)

 

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社員の皆さん、ご家族の皆さんへ

 

「鉄を通じて社会を支えます」
「顧客の信頼が私たちの報酬です」
「最高の仕事のために日々挑戦します」

 

この経営理念は私が8年前に中小企業家同友会の合宿(1泊2日)で作ったもの。

それまで理念の「り」の字も知らなかった私が、なんとか一晩考え込んで作ったものです。

この3つを定め、毎朝の朝礼で唱和してきました。

仕事をする上での基準となる考えとしてずいぶん定着したものと思います。

 

でも私はこれを、いつかもう一度練り直したいと思っていました。

社員全員で考え、目的と価値観を腑に落とし込み、自分たちの理念にさらに近寄った言葉をさぐり当てたい。

だから今月の学習会は、経営理念の再考がテーマでした。

いろんな意見が出ました。

 

「仕事はお客さんがいてのもの。

もし自分が買って使うならどうか。

だからちゃんとひと手間を掛けて丁寧に作る。

それはお客さんも分かってくれる。

ちゃんとやっていたらお客さんも来てくれる」

(Aさん)

 

「自分の考えを必ず乗っけて仕事をする。

漫然と機械的に作業としてやったことと、自分なりに考えてやった仕事では、品質は変わる」

(Bさん)

 

「安いだけで粗悪な他社製品がお客さんのトラックに積んであることがある。

うちなら出されへんレベル」

(C君)

 

入社5年目の若いC君が会社のクオリティを誇ってくれること。

それは何よりうれしいことです。

品質への妥協なき姿勢。

これがまさに私たちの理念(大切にしたい価値観)であることを確認しました。

 

この議論を聞きながら、かつて私が3代目社長を継いだ頃にあった苦い経験を思い出しました。

 

2000年頃、まだレーザーもプラズマもなく、ガス切断だけだった時代でした。

ガス切りのNCで9ミリも、12ミリも切っていました。

NC担当のDさんはお父様が働く溶断工場を子供の頃から手伝っていた生粋の職人です。

当時は40代半ばでまさに脂が乗り切っていました。

またそのころ、廃業した他社から転職して来てくれたEさんがまさにプロ中のプロで、丁寧ないい仕事をしてくれました。

私たちの切る材料はまだ半製品。

お客さんが必ず次工程をほどこします。

だから「次に使う人が使いやすいように」というのがEさんのモットーで、品質には絶対に妥協しない頑固職人でした。

また、ともに勤続20年以上のベテランのFさんが丸切り、Gさんが角切り。

腕のいい職人ぞろいで丁寧な仕事をする工場、それが坂元鋼材でした。

 

ところが当時は不景気で鉄鋼業界も冬の時代。

バブル崩壊、金融不安を経て「鉄冷え」と称されていました。

世の中の鉄鋼需要が激減し、相場は低迷。

仕事が少ないから、いきおい「安値競争」が激化しました。

 

困ったのが、我が社の得意先に破格値で売り込む同業他社(X社)の存在でした。

うちにリピート注文で来ていた量産品を、その8割から6割(!)くらいの値段でうちの得意先に売り込むのです。

得意先さんはその「破格値」のリストを私にファクスで送ってきました。

8割から6割です。

出来るわけがありません。

その量産品の数々はX社に取られてしまいました。

 

ある日のこと。

得意先さんがX社に注文した品物をトラックに積んで、我が社に来ました。

それを見てビックリ。

一目で粗悪とわかるドス黒い材料で、しかも切り方が乱雑。

こんな品物にお客さんを奪われたのかと思うと、情けなくて涙が出そうでした。

でも、お客さんも馬鹿ではありません。

そんな品質でまともな仕事にはならなかったのでしょう、数カ月もすると量産品のいくつかは我が社に帰ってきてくれました。
「やっぱり坂元さんで切ってほしい」と。うれしかった。

 

そのX社ですが、実は自社では切断せずに下請けの溶断工場(Y社)に外注して、さらに安い値段で切らせていたのでした。

とすると、下請けは想像を絶する安値で仕事をしていたわけです。

そのY社のことを、我が社に来たばかりのEさんが良く知っていました。前の職場が近かったのです。

「社長、あそこの仕事なら怖くありまへん。いずれ帰ってきますわ」

その言葉は正確だったわけです。
後日談になりますが、その同業他社(X社)も外注先(Y社)ものちに廃業しました。

 

日本一の旅館・加賀屋の小田相談役の言葉を2つご紹介します。
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「マーケティングの原点はお客様が抱えている問題を解決することです。お客様はすべて安いものがほしいと思っているわけではなく、自分たちの需要を満たしてくれる本物を提供してくれるところはどこなのか、きっと探しておられるはずです。ですから、自分たちのターゲットマーケット(対象購買層)を見つけることが大切です」

 

「親父はこう言いました。『商売は難しいもんではない。目の見えない蟻でも、砂糖と塩があれば、結局は砂糖の山に行く。その対価に対し、それだけの価値があるなら、お客はそっちへ来る』と。合理的な仕入れをしているか。一つ一つを大切に陰日向なくやっているか。砂糖の山か、塩の山か、お客は見極める。だから安売りせず、いいものを売る」
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このかつての「安値騒動」で私たちは品質重視の姿勢をさらに強めました。

使う鋼材は国産の一級品を守り、加工機もハイエンドのものを。

そして職人の腕を磨き続けること、つまり社員教育に力を入れ続けました。

それらが理念にまで昇華してくれたのが、いまの会社の姿です。これほど有難いことはありません。

 

この伝統を築いてくださった歴代そして現在の社員の皆さんに心から感謝します。ありがとうございます。

 

2017年8月25日
坂元鋼材株式会社 代表取締役 坂元正三